白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧

プラトン最後の旅6―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

プラトンの西方への旅の従者であり、またプラトンに影形ともなった私設秘書でもあるグラディウスは、晩年をカルタゴのビスクラで人目を忍ぶように送った。彼は酒に酔ってしばしば人に語った。自分は古代ギリシャの神話の英雄アトラスを見た、と。アトラスは…

「小説推理」12月号で『皿屋敷』紹介

「小説推理」2015年12月特大号の「今月のベスト・ブック・幻想と怪奇」欄で、小社刊『皿屋敷――幽霊お菊と皿と井戸』が取り上げられました。 「小説推理」さんのサイト↓ http://www.futabasha.co.jp/magazine/suiri.html 執筆は『幽』編集長としてご活躍の東…

プラトン最後の旅5―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

このとき、プラトンははっきりと、明日は西へ向って旅立とうと思った。彼はむしょうに一人になりたかった。はるかな西、ポセイドンの海のただなかに在ったという、〈神の怒りに触れた〉大陸が、彼自身の故郷であるかのように切なかった。 光瀬龍『百億の昼と…

プラトン最後の旅4―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

寄せてはかえし 寄せてはかえし かえしては寄せる波の音は、何億年ものほとんど永劫にちかいむかしからこの世界をどよもしていた。 それはひとときたりともやむことはなかったし、嵐の朝はそれなりに、なぎの夕べはそれらしくあるいははげしく、時におだやか…

プラトン最後の旅3―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

オリオナエ? 誰だ、それは? 心の中で憂鬱な問いが湧き上ってきたが、つぎの瞬間には、 ああ、そうだ。おれのことなのだな。プラトンは心の中でうなずいた。 少し疲れているな――プラトンは自分の足が他人のそれのように感覚が失われているのが妙にもどかし…

プラトン最後の旅2―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

「……賢者ソロンの遠戚、アテーナイに名だたる名門……アリストンさまの……プラトンさま……私めが所蔵いたす……」 そんな言葉が切れ切れに彼の耳にとどいてきた。彼は気ぜわしく二、三度うなずきかえすと、もう聞くのをやめて周囲の暗闇を見まわした。(中略) ふ…

プラトン最後の旅1―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

新星雲紀。双太陽青九三より黄一七の夏。アスタータ五〇における惑星開発委員会は、〈シ〉の命を受け、アイ星域第三惑星にヘリオ・セス・ベータ型開発をこころみることになった。 これはファンなら暗誦できると言われている日本SFの傑作、光瀬龍『百億の昼…

プラトン先生がご存命ならば

小社刊『ティマイオス/クリティアス』の著者略歴の欄に、訳者岸見一郎さんとともに、原著者プラトンの紹介があることを面白がってくださる方がいらっしゃいました。 原作者不明または不詳というならともかく、『ティマイオス』と『クリティアス』はプラトン…