白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

猛暑をしのぐ白澤社怪談本の決定版『新選百物語―吉文字屋怪談本 翻刻・現代語訳』

猛暑をしのぐ白澤社怪談本の〆はこれ、篠原進監修『新選百物語―吉文字屋怪談本 翻刻・現代語訳』(翻刻・注・現代語訳=岡島由佳)。

この『新選百物語』におさめられた怪異談は怖い話ばかりではなく、笑い話風のものや人情話風のものもあってバラエティに富んだ内容です。

また、題名と挿絵だけあって本文の欠けている最終話「国をへだてて二度の嫁入り」も、どんな話だったのだろうと想像してみると寝苦しい夜も暑さを忘れることができます。

全14話中の2話をラフカディオ・ハーンが翻案しているとはいえ、全文の翻刻・現代語訳の書籍化は今回が初めてという江戸時代の怪談集。堤邦彦さんと近藤瑞木さんのコラムも収録されていてたいへんお得。

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これまであまり知られてこなかった江戸怪談を原典から現代語訳して紹介するという小社の怪談本の決定版とも言える一冊です。
それなのに、〈江戸怪談を読む〉と銘打たれていないのはなぜ?
決してうっかり忘れたわけではありません。
実は、本書とは別に〈江戸怪談を読む〉叢書の一冊として「百物語」を企画しておりまして、それとダブることを避けるため、『新選百物語』は、〈江戸怪談を読む〉叢書のスピンアウトという位置づけにしたのでした。

 

『新選百物語』の書誌で旗は下記の通りです。
[書 名]新選百物語
[副 題]吉文字屋怪談本 翻刻・現代語訳
[著 者]監修=篠原進/翻刻・注・現代語訳=岡島由佳/コラム=堤邦彦・近藤瑞木
[体 裁]四六判並製、208頁
[定 価]2000円+税

真夏の怪談にふさわしいのは『牡丹灯籠』

真夏の怪談にもっともふさわしいのは、実は『牡丹灯籠』であります。
季節もまさに夏、お盆のころ、盆提灯に似た牡丹灯籠を提げた美女が、カランコロンカランコロンと駒下駄を鳴らして…というのは、円朝の長篇落語『怪談牡丹燈籠』でおなじみになった光景です。
ところで、前回、『皿屋敷』をご紹介した記事で、「皿屋敷」伝説のお菊ちゃんに、『死霊解脱物語聞書』の累さん、「四谷怪談」のお岩さまと合せて江戸三大幽霊と呼ぶと申しました。
『牡丹灯籠』のお露ちゃんは入らないのか、可哀そうじゃないかというご意見もあろうかとは存じますが、これについて小社では、諸説ありますとは逃げません。
「牡丹灯籠」怪談のヒロインの原型は、中国・明代の奇譚集『剪燈新話』の一編『牡丹燈記』に登場する符麗卿です。時代は元末の騒乱の頃とされていますから14世紀中頃、つまり江戸時代じゃないんです。
これが日本で広く知られたきっかけとなったのは、浅井了意による短編集『伽婢子』に収録された『牡丹燈籠』です(本書第二章に門脇大さんによる現代語訳掲載)。
もともと正月の話だったのを夏のお盆のころに変えたのも浅井了意の着想でした。
この翻案小説でヒロイン二階堂弥子の霊が京都に現われたのは天文17年(1548)の設定で、これは戦国時代、まだ江戸時代になっていない。
ようやく幕末になって三遊亭円朝が時代を変えて江戸の旗本の娘お露をヒロインにしますが、それまでの「牡丹灯籠」怪談のヒロインは江戸時代を代表する幽霊とはちょっと言い難いというのが、小社の見解です。
とはいえ、この物語が〈江戸怪談を読む〉叢書に入っているのは、物語そのものが江戸時代の人々に愛され、繰り返し翻案されてきたことによります(本書第一章の横山泰子さんによる概説をご覧ください)。
その集大成とも言えるのが円朝の『怪談牡丹燈籠』で、本書第六章でハイライトシーンを紹介し、第七章で斎藤喬さんが詳細に論じています。
また今井秀和さんによる第六章「骨女の怪奇とエロス」による意表をついた着眼による妖怪画の分析などもあり、『牡丹灯籠』の魅力を多角的に語り明かす一冊です。

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本書の書誌データは次の通り。
[叢書名]〈江戸怪談を読む〉
[書 名]牡丹灯籠
[著 者]横山泰子・門脇大・今井秀和・斎藤喬・広坂朋信
[頁数・判型]四六判並製、208頁
[定 価]2000円+税

アイドルから虫まで―『皿屋敷』

猛暑の暴威に立ち向かう〈江戸怪談を読む〉叢書第三弾は、『皿屋敷―幽霊お菊と皿と井戸』です。
いかにも怪談らしいお話のヒロインお菊ちゃんは、『死霊解脱物語聞書』の累さん、「四谷怪談」のお岩さまと合せて江戸三大幽霊と申します。
物語のなかでの年齢が若いので、ついお菊ちゃんなんて呼んでしまいますが、物語自体は遅くとも江戸時代の初めごろには成立していただろうことを考えると、累さんやお岩さまの先輩にあたるわけです。
とはいえ、物語のなかのお菊のキャラクターはあくまで可憐な少女で、『皿屋敷』では民俗学者の飯倉義之さんが本書第四章で、アイドル・グループAKB48になぞらえてOKK48と銘打って各地の伝説を紹介しているくらいです。
しかし、お菊にまつわる伝説は可愛らしいものばかりではありません。
今井秀和さんが本書第八章「お菊虫のフォークロア」で紹介している「お菊虫」の正体は、ジャコウアゲハのサナギで見ようによっては結構グロい。今井さんはこのお菊虫を再現すべく、手づからジャコウアゲハの幼虫を育て上げたと言いますから、その探究心たるやまことに敬服いたします。
アイドルから虫まで、バラエティに富んだ皿屋敷怪談の魅力の詰まった一冊です。

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本書の書誌データは次の通り。
[書 名]〈江戸怪談を読む〉皿屋敷
[副 題]幽霊お菊と皿と井戸
[著 者]横山泰子、飯倉義之、今井秀和ほか
[体 裁]四六判並製、208頁
[定 価]2,000円+税
信濃毎日新聞、「小説推理」誌などでご紹介いただきました。
また、本書刊行を記念して、東京堂書店さんで講談師・神田山緑師匠による「怪談の夕べ「講談で聞く皿屋敷」」を催したことや、明屋書店中野ブロードウェイ店さんで立体ポップを作っていただいたのもうれしい思い出です。

甦った累怪談

〈江戸怪談を読む〉叢書の記念すべき一冊目は累(かさね)怪談の原典『死霊解脱物語聞書』(小二田誠二・解題・解説)でした。
前回ご紹介した『四ツ谷雑談集』にも影響を与えた物語です。
北関東の農村で起きた憑霊事件を、当事者たちへの聞き取り調査から再構成したルポルタージュともいえる作品で、おそらく九割は実話(当社比)。
いわゆる怪談というよりは名もなき人間たちのドラマを描いた傑作。
現代語訳も併載していますが、原文もリズム感のある文章で声に出して読みたいくらいです。「我は菊にあらず、汝が妻の累なり。」
翻刻と解題・解説を担当された小二田誠二さん(静岡大学教授)主催の「累の会」や、その「累の会」に参加された能楽師・安田登さんの新作能、本書からインスパイアされたという松浦だるまさんの傑作コミック『累』(講談社)が2018年に映画化(『累 -かさね-』)されるなど、現代に累伝説をよみがえらせた一冊とひそかに自負しております。

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幽霊の日には四谷怪談

今日は、文政八年(1825)七月二十六日に鶴屋南北東海道四谷怪談』が初演されたことにちなみ、幽霊の日とされているそうです。
幽霊と言えば、お岩様、お岩様と言えば四谷怪談と相場が決まっていたほど、南北の芝居に登場するお岩様の亡霊は日本の幽霊イメージに影響を与えたのでしょう。
東雅夫さんが『小説推理』誌上で「日本最恐の幽霊譚に、最強の入門書」と評してくださった小社の『実録四谷怪談―現代語訳『四ツ谷雑談集』』は2013年7月の刊行です。
刊行当時にこのブログに掲載した紹介は下記をご覧ください。

『実録四谷怪談 現代語訳『四ッ谷雑談集』』(刊行のお知らせです)
https://hakutakusha.hatenablog.com/entry/20130717/1374033845

読みやすくするために(編集こぼれ話的なもの)
https://hakutakusha.hatenablog.com/entry/20130725/1374747187

『実録四谷怪談』が「小説推理」で紹介(東雅夫さんによる書評)
https://hakutakusha.hatenablog.com/entry/20130729/1375092565

『実録四谷怪談』の挿絵について(掲載の挿絵について)
https://hakutakusha.hatenablog.com/entry/20130731/1375254419

お岩様の顔
https://hakutakusha.hatenablog.com/entry/20130801/1375352237

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四谷怪談」の源流『四ツ谷雑談集』の全章を現代語訳した『実録四谷怪談』の書誌は全国の主要書店でお取扱いがあります。
店頭で見つからない場合は書店さんを通してご注文下さい。

夏だ!怪談だ!

久しぶりに青空が見えたと思ったら、真夏の日差しがドーンと押し寄せてきました。
夏といえば、怪談です。
小社では〈江戸怪談を読む〉と銘打って、近世怪談に現代語訳と注釈を添えてご紹介するシリーズを刊行しております(既刊5冊)。
『死霊解脱物語聞書』(小二田誠二・広坂朋信ほか著)
『実録四谷怪談』(横山泰子・広坂朋信ほか著)
皿屋敷』(横山泰子・飯倉義之・今井秀和ほか著)
『猫の怪』(横山泰子・早川由美・今井秀和ほか著)
『牡丹灯籠』(横山泰子・斎藤喬・門脇大ほか著)
また、同シリーズのスピンオフとして、『新選百物語―吉文字屋怪談本 翻刻・現代語訳』(監修=篠原進/翻刻・注・現代語訳=岡島由佳/コラム=堤邦彦・近藤瑞木)もございます。
といったように、各巻とも今回が初めて!という取り組みが仕掛けてあります。
暑い夏の夜に、ぜひお楽しみください。

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信濃毎日新聞で『表象天皇制論講義』紹介

2019/7/14付 信濃毎日新聞の書評欄で、茂木謙之介著『表象天皇制論講義―皇族・地域・メディア』が紹介されました
該当箇所を抜粋させていただきます。

 

 私たちの天皇制のイメージは、大半がメディアからの情報によって形作られている。本書は近現代の天皇制をそうした「表象の集積体」と捉え、新聞や雑誌、小説などを読み解いていく。
 著者は天皇の「血のスペア」とも言える皇族に着目。例えば、昭和天皇の弟秩父宮を巡る表象から、明治以降衰退した埼玉・秩父という地域社会が、皇族の存在により国民国家の一員として参入していく構図が見える。
 つかみどころのない天皇制が、今なお存続する理由を考える上で、重要な視座を与える一冊。

 

 信濃毎日新聞さん、ありがとうございました。

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なお同書の書誌データは以下の通りです。
『表象天皇制論講義』概要
[書 名]表象天皇制論講義
[副 題]皇族・地域・メディア
[著 者]茂木謙之介
[頁数・判型]四六判上製、288頁
[定 価]3400円+税
ISBN978-4-7684-7976-6