白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

読書

大澤聡編『三木清文芸批評集』講談社文芸文庫

「特殊の場合を除き、現在純文学の読者の数は恐らく千か二千である。」 手に取った本を開くなりパッと目に飛び込んできたのがこの一行でした。 『三木清文芸批評集』(大澤聡編、講談社文芸文庫)に収められた「通俗性について」と題されたエッセイ中の文章…

クリスマスだからシモーヌ・ヴェイユ

今日はクリスマスですね。 日本ではクリスマス・イブの方がにぎやかに祝われますが、クリスマスといえば今日、12月25日です。 というわけで、シモーヌ・ヴェイユ『前キリスト教的直観』(今村純子訳・法政大学出版局)から、プラトン『ティマイオス』に…

ハンス・ヨナス『グノーシスと古代末期の精神』(大貫隆訳、ぷねうま舎刊)

前回の記事の終わりでグノーシス思想についてちょっとふれました。 http://d.hatena.ne.jp/hakutakusha/20151218/1450437758 プラトン『ティマイオス/クリティアス』と浅からぬ因縁をもつグノーシス思想についての研究の記念碑的著作である、ハンス・ヨナス…

プラトン最後の旅7―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

「沈黙の夕べ、とは?」 「部落の古いしきたりです。祖先を想い出す夕べ、とも申しましょうか」 「祖先を想い出す、ふうむ。それはよいことだ。とくにこの部落ではそうであろう。祖先からのいい伝えにはしばしば真理がかくされてあるもの。沈黙の夕べとはま…

プラトン最後の旅6―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

プラトンの西方への旅の従者であり、またプラトンに影形ともなった私設秘書でもあるグラディウスは、晩年をカルタゴのビスクラで人目を忍ぶように送った。彼は酒に酔ってしばしば人に語った。自分は古代ギリシャの神話の英雄アトラスを見た、と。アトラスは…

プラトン最後の旅5―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

このとき、プラトンははっきりと、明日は西へ向って旅立とうと思った。彼はむしょうに一人になりたかった。はるかな西、ポセイドンの海のただなかに在ったという、〈神の怒りに触れた〉大陸が、彼自身の故郷であるかのように切なかった。 光瀬龍『百億の昼と…

プラトン最後の旅4―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

寄せてはかえし 寄せてはかえし かえしては寄せる波の音は、何億年ものほとんど永劫にちかいむかしからこの世界をどよもしていた。 それはひとときたりともやむことはなかったし、嵐の朝はそれなりに、なぎの夕べはそれらしくあるいははげしく、時におだやか…

プラトン最後の旅3―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

オリオナエ? 誰だ、それは? 心の中で憂鬱な問いが湧き上ってきたが、つぎの瞬間には、 ああ、そうだ。おれのことなのだな。プラトンは心の中でうなずいた。 少し疲れているな――プラトンは自分の足が他人のそれのように感覚が失われているのが妙にもどかし…

プラトン最後の旅2―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

「……賢者ソロンの遠戚、アテーナイに名だたる名門……アリストンさまの……プラトンさま……私めが所蔵いたす……」 そんな言葉が切れ切れに彼の耳にとどいてきた。彼は気ぜわしく二、三度うなずきかえすと、もう聞くのをやめて周囲の暗闇を見まわした。(中略) ふ…

プラトン最後の旅1―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』より

新星雲紀。双太陽青九三より黄一七の夏。アスタータ五〇における惑星開発委員会は、〈シ〉の命を受け、アイ星域第三惑星にヘリオ・セス・ベータ型開発をこころみることになった。 これはファンなら暗誦できると言われている日本SFの傑作、光瀬龍『百億の昼…

市野川容孝・渋谷望編著『労働と思想』堀之内出版

最近、新しい思想誌『nyx』(ニュクス)を始められて注目を浴びている堀之内出版さんから出た充実した一冊です。 なんといっても便利。22人の思想家の労働観がコンパクトにまとめられているので、読む事典みたいにして使えます。人文書の編集を仕事にしてい…

矢野久美子『ハンナ・アーレント』中公新書

矢野久美子著『ハンナ・アーレント』 (中央公論新社)を読みました。 実は、著者の矢野久美子さんからご恵贈いただいたのですが、忙しさにまぎれて感想を申し上げるのがすっかり遅くなってしまっていたのでした。すみません。 とにかく面白いのです。キャッチ…

ブルジェール『ケアの倫理』白水社

ファビエンヌ・ブルジェール著『ケアの倫理―ネオリベラリズムへの反論』(原山哲/山下えり子訳、白水社)を読みました。 版元、白水社さんの紹介ページはこちら↓ http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=50987 原著者のファビエンヌ・ブルジェー…

小玉重夫『難民と市民の間で』現代書館

昨年末からハンナ・アレントの伝記映画が評判になっていますが、小社のロングセラー(当社比)『シティズンシップの教育思想』の著者、小玉重夫さんが昨秋出版したアレント論『難民と市民の間で』を読みましたのでご紹介したいと思います。 版元・現代書館さん…

木前利秋『メタ構想力』――木前利秋先生を偲んで

木前利秋先生(大阪大学人間科学研究科教授)が、去る12月4日にご逝去されたとのお知らせをいただきました。享年62歳とのことでした。謹んでお悔やみを申し上げます。 木前先生には、小社では『変容するシティズンシップ』(2011)、『葛藤するシティズンシ…