白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

甦った累怪談

〈江戸怪談を読む〉叢書の記念すべき一冊目は累(かさね)怪談の原典『死霊解脱物語聞書』(小二田誠二・解題・解説)でした。
前回ご紹介した『四ツ谷雑談集』にも影響を与えた物語です。
北関東の農村で起きた憑霊事件を、当事者たちへの聞き取り調査から再構成したルポルタージュともいえる作品で、おそらく九割は実話(当社比)。
いわゆる怪談というよりは名もなき人間たちのドラマを描いた傑作。
現代語訳も併載していますが、原文もリズム感のある文章で声に出して読みたいくらいです。「我は菊にあらず、汝が妻の累なり。」
翻刻と解題・解説を担当された小二田誠二さん(静岡大学教授)主催の「累の会」や、その「累の会」に参加された能楽師・安田登さんの新作能、本書からインスパイアされたという松浦だるまさんの傑作コミック『累』(講談社)が2018年に映画化(『累 -かさね-』)されるなど、現代に累伝説をよみがえらせた一冊とひそかに自負しております。

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