白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

読みやすくするために

梅雨の再来なのか、じとじとした蒸し暑い日が続きます。
今日は新刊『実録四谷怪談 現代語訳『四ッ谷雑談集』』に序文を寄せてくださった横山泰子先生(法政大学)とお昼をご一緒しました。
横山泰子先生といえば、『四谷怪談は面白い』(平凡社)など、数々のご著書でお岩様の魅力を語り続けてこられた方ですが、今は、昨年から刊行の始まった『円朝全集』(岩波書店)の校注に取り組んでおられて、その苦労話などをうかがいました。
岩波書店さんのHP↓
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/092741+/
真景累ヶ淵』や『牡丹灯籠』で知られる三遊亭円朝は落語家ですから、原稿用紙に向かって(今ならワープロやパソコンに向かって)書いたのではありません。口演しているところを速記者が記録して、そこから活字に起こしたのです。この速記本というのがたいへん読みにくい。改行もなければ句読点もない。どこで区切ればよいものか、延々と咄が続く。なんでも句読点の普及したのは明治二十年代頃からなんだそうで、それ以前は句読点のない本の方が多かったのだそうです。そう言えば、『四ッ谷雑談集』も、昨年刊行した『死霊解脱物語聞書』も、小二田誠二先生(静岡大学)が句読点を振ってくださらなかったら、とても読めるものではありませんでした。
ともあれ、円朝が語るのを耳で聞けば、きっとすんなり頭に入ってきただろう咄も、目で読むのはたいへんな苦労。そこで改行や段落分けをして、原文はそのままでしかも読みやすくする工夫をなさっているのだそうですが、そのためには、区切りなく続く速記の文章をどこで区切るべきか決めなければなりません。これが難題で、文字を読んで考えているだけでは、いっこうにわからない。
そこで横山先生は、もともと落語とは語って聞かせるものだから音読すればリズムがつかめるのではないかと声に出して読み上げてみたのだそうです。何度も繰り返し音読してみると、目で読んでいたときには読みにくく思われたものが、かえって読みやすく感じられたそうです。読んでいるうちに熱中して高座の落語家よろしく身振り手振りまでつけたとか。一度、横山先生のお話ではなく「咄」を聞いてみたいものです。
古典は読んでみれば面白い、それを現代の読者に伝えたくて小社でも「江戸怪談を読む」を企画したわけですが、読みやすくするためには、単にフリガナを振ったり漢語を減らしたりするだけではなく、原文のリズムを伝える工夫が必要なのだと教えていただきました。