白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

アイドルから虫まで―『皿屋敷』

猛暑の暴威に立ち向かう〈江戸怪談を読む〉叢書第三弾は、『皿屋敷―幽霊お菊と皿と井戸』です。
いかにも怪談らしいお話のヒロインお菊ちゃんは、『死霊解脱物語聞書』の累さん、「四谷怪談」のお岩さまと合せて江戸三大幽霊と申します。
物語のなかでの年齢が若いので、ついお菊ちゃんなんて呼んでしまいますが、物語自体は遅くとも江戸時代の初めごろには成立していただろうことを考えると、累さんやお岩さまの先輩にあたるわけです。
とはいえ、物語のなかのお菊のキャラクターはあくまで可憐な少女で、『皿屋敷』では民俗学者の飯倉義之さんが本書第四章で、アイドル・グループAKB48になぞらえてOKK48と銘打って各地の伝説を紹介しているくらいです。
しかし、お菊にまつわる伝説は可愛らしいものばかりではありません。
今井秀和さんが本書第八章「お菊虫のフォークロア」で紹介している「お菊虫」の正体は、ジャコウアゲハのサナギで見ようによっては結構グロい。今井さんはこのお菊虫を再現すべく、手づからジャコウアゲハの幼虫を育て上げたと言いますから、その探究心たるやまことに敬服いたします。
アイドルから虫まで、バラエティに富んだ皿屋敷怪談の魅力の詰まった一冊です。

f:id:hakutakusha:20150701163049j:plain

本書の書誌データは次の通り。
[書 名]〈江戸怪談を読む〉皿屋敷
[副 題]幽霊お菊と皿と井戸
[著 者]横山泰子、飯倉義之、今井秀和ほか
[体 裁]四六判並製、208頁
[定 価]2,000円+税
信濃毎日新聞、「小説推理」誌などでご紹介いただきました。
また、本書刊行を記念して、東京堂書店さんで講談師・神田山緑師匠による「怪談の夕べ「講談で聞く皿屋敷」」を催したことや、明屋書店中野ブロードウェイ店さんで立体ポップを作っていただいたのもうれしい思い出です。