現象学とはなにか?といえば、そのものズバリのタイトルを掲げた新田義弘『現象学とは何か――フッサールの後期思想を中心として』(講談社学術文庫)をはじめとして、木田元『現象学』(岩波新書)から、谷徹『これが現象学だ』(講談社現代新書)や、植村玄輝・八重樫徹・吉川孝共編『現代現象学――経験から始める哲学入門』(新曜社)まで、定評ある入門書がいくつもあります。
永野潤著『イラストで読むキーワード哲学入門』の「現象学 Phenomenology」の項では次のように説明されています。
「リンゴを見ている」ときは、目の前のここにある「このリンゴ」を見ているのだ、という基本的な場面、つまり、一人称の風景に立ち返ろうとしたのが、19世紀オーストリアの哲学者エトムント・フッサールにはじまる「現象学 phenomenology」という哲学の立場だ。
「一人称の風景」というのはどういうものなんでしょうか。
昨年話題になった映画『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督)の前半のように、ゾンビから逃げまわる人々を一台のカメラがワンシーン・ワンカットで撮影した映像を思い浮かべてしまいますが、ちょっと違うようです。
どう違うのか、あまり詳しく説明すると『カメラを止めるな!』のネタバレになってしまうのでやめておきましょう。
そのかわりに、永野さんが一人称の風景を表した次のイラストをご覧ください。
あるはずのリンゴの裏側は見えないし、おそらく長方形だろうテーブルの天板は台形に見えるし、床のタイルも菱形に見えます。
しかし、それを錯覚や、実物のイメージにすぎないものとは考えないのが現象学だと永野さんは言います。
「現象学は、私たちが、様々な現れを通じて、同じ一つのテーブル、テーブルそのものを見ている、と考える。」
さらに永野さんは、「志向性」や「世界内存在」についても、簡潔に説明してくれているのですが、詳しくは発売中の『イラストで読むキーワード哲学入門』をご覧ください。
ちなみに、冒頭に挙げた類書の特徴をメモしておきますと、
現象学の歴史についてコンパクトにまとまっているのが木田『現象学』、
学祖フッサールとその直弟子たちの思想をまとめたのが新田『現象学とは何か』、
現象学の方法と考え方を明快に示したのが谷『これが現象学だ』、
現象学のいろいろな分野での応用と展開を整理したのが植村ほか編『現代現象学』、
という感じになるかなと思います。