白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

『皿屋敷』のある書店3明屋書店中野ブロードウェイ店さん

以前にもご紹介した明屋書店中野ブロードウェイ店さんの新刊棚。
皿屋敷──幽霊お菊と皿と井戸』にポップをつけてくださいました。

(7/31撮影、明屋書店中野ブロードウェイ店さんのご了解をいただいています。)
こちらの棚では、新刊『皿屋敷』と並べて『実録四谷怪談――現代語訳『四ツ谷雑談集』』も置いてくださっていますので、四谷怪談のお岩さまが皿屋敷のお菊ちゃんを紹介するという趣向のようです。
お菊ちゃんとお岩さまは、取り違えられたり、ごっちゃになっていたりすることもありますが、これは最近の傾向というだけではないようです。
JR市ヶ谷駅からすぐのところに、帯坂という細い坂道があります。
この帯坂の名前の由来には、二人の幽霊にまつわる奇妙な伝説が伝えられています。
皿屋敷』より今井秀和さん執筆の「第六章 再創造される皿屋敷」から引用します。

端的に言って、お岩は醜い女幽霊の筆頭であり、お菊は美しい女幽霊の筆頭である。しかし、メジャーな女幽霊という意味で、お岩とお菊は古くから交換可能な存在でもあった。たとえば千代田区九段南四丁目と五番町との境にある帯坂は、お菊が帯を垂らして疾走した坂であると伝えられる(横関英一『江戸の坂 東京の坂』)。しかし横関も記しているように、疾走したのはお岩だという説も存在するのである(『麹町区史』)。要は、一応の怪談として成立可能であれば、世間的にはきっと、どちらでもいいのである。

この「お菊/お岩のハイブリッド化にも似た文化現象」の現代における代表例が、映画『リング』の貞子だと今井さんは論じます。
こうしてみると、明屋書店中野ブロードウェイ店さんのポップはお菊ちゃんなのかお岩さまなのか、はたまた『リング』の貞子なのか?
いやいやお顔の怖い幽霊の元祖『死霊解脱物語聞書』の累さんかもしれない…などと、連想が広がって面白いですね。