白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

高木駿著『カント『判断力批判』入門――美しさとジェンダー』よはく舎

書店でこの本を手に取って、読んでみようと思ったのは、次の文章が目に飛び込んできたからでした。

判断力批判』を一人で読解するのは無謀とも言えます。少なくとも僕には無理でした。最初は開いた本をそっと閉じた記憶があります。(高木駿著『カント『判断力批判』入門』よはく舎、10頁)

高木駿著『カント『判断力批判』入門――美しさとジェンダー』よはく舎

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784910327105

カント美学の代表作『判断力批判』を「そっと閉じた記憶があります」! あります、あります! 私にもあります。

小社創業の企画『フェミニズム的転回――ジェンダー・クリティークの可能性』を編集していたときのことでした。思想・人文系の五人のフェミニストに執筆していただいたこの論集に、美学・美術史の故・持田季未子先生が「美的判断力の可能性」という論文を寄稿してくださいました。カント『判断力批判』をジェンダーの視点から読みかえる試みでした。

そこで私どももさっそくカントを読んでみようということになり、『判断力批判』の頁を開いたのですが……、「開いた本をそっと閉じた記憶があります」。

こんな経験があるものですから、凡人には読んでもわからないに違いない、なんて開き直って、以後は敬遠していたのでした。

しかし、「最初は開いた本をそっと閉じた記憶」があるというこの著者の本なら、きっとカントのわかりづらさを共有しながら解説してくれるのだろうと期待して読み始めたところ、その期待は見事にかなえられました。

本当ですから、読んでみてください。

目次は見ずに、いきなり「はじめに」から読み始めてください。著者の平明な語り口に感心しながら読んでいるとすぐに読み終わりますから、その勢いで第一章に進みましょう。時々、カントの難解な文章が引用されますが読み飛ばしても大丈夫、その前後で著者がていねいに解説してくれています。

問題はワインの味がわかるとはどういうことかだ、とこれだけ頭に入れておけば、どんどん読み進めることができます。開いた本をそっと閉じる必要はありません。

カント入門書のなかでも画期的なわかりやすさです。おすすめします。

ちなみに、ジュンク堂書店さんで本書の著者・高木駿氏とバウムガルデン美学の研究者・井奥陽子氏によるオンライン・トークイベントが企画されているようです。詳しくはこちらから ↓

6/12 なぜ今カント美学か – 丸善ジュンク堂書店オンラインイベント (maruzenjunkudo.co.jp)