白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

『美術手帖2022年2月号』特集 ケアの思想とアート

美術手帖2022年2月号<br>特集 ケアの思想とアート|美術出版社 (bijutsu.press)

アートとケア、一見すると少し離れたテーマのように感じられるのですが、同誌の望月かおる編集長は、巻頭言でアメリカの哲学者エヴァ・フェダー・キテイの「他者への依存を不可避とし、偶然とも言える相互依存のなかで、他者のニーズを充たすためにときに奔走する人々の実践から世界をとらえる」という視点を引いて、それは「ケアする側とされる側両方への想像力をうながすようなもの」だとしています。

「現代美術のなかでもこうしたテーマに根ざし、社会のなかであえて蓋されがちなことを、作品という形で声にしてきた作家は多い。」(望月)

ケアは、小社が積極的に取り組んでいるテーマの一つでもあります。

しかも、エヴァ・フェダー・キテイと言えば、小社から日本語訳を刊行した『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』ではありませんか。

ケアの倫理からはじめる正義論 | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)

『ケアの倫理とエンパワメント』(講談社)が評判の小川公代さんへのインタビュー「固定観念に抗う「ケアの時代」の想像の力」(田中みゆき=聞き手)ではジョアン・C・トロント/岡野八代『ケアするのは誰か?』が取り上げられています。

ケアするのは誰か? | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)

そして、キテイ本の共訳者でもある岡野八代さんによるブックガイド「ケアの思想とは何か」(清水知子+岡野八代)では、『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』と『ケアするのは誰か?』が書影付きで紹介、しかもカラー(4色)! さすが美術雑誌。

さらに、美術批評家の杉田敦さんによる「ケアの思想から関係性へ」でもキテイさんの『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』が「ケアの考察に大きな発展をもたらしたきっかけのひとつ」として紹介されています。

「誰もがみな母親の子供であるという彼女の素朴な警句は、当事者だけに収束しがちな問題を、本来それがたたえているはずの広がりのなかに解き放ってくれた。」(杉田)

その杉田さんと美術家の田中功起さん、そして岡野八代さんによる鼎談「「ケア」を起点に考える、新しい社会のかたち」がこの特集の締めです。

美術手帖さんはTwitterを使っています 「【2月号ケア特集】「まったくフリーな『タブラ・ラサ』状態の個という西洋の伝統的な哲学の基盤をいったん忘れ、人間についてとらえ直さなければならないと思います」(座談会より、杉田敦)https://t.co/z28W0PoUIK https://t.co/ryE1dr4Y3O」 / Twitter

お三方の写真を見て、おや岡野さんと田中さんがおそろいの帽子、と思ったら、岡野さんは髪を染めているのでしたね。

美術手帖』さんでこんなに小社の本が取り上げられる日が来るなんて想像もしていなかったので、うれしい驚きにドキドキしながら読みました。

予言獣クダンを語る2.12『クダン狩り』刊行記念トークイベントのお知らせ

人面牛身の妖獣クダンの伝説を日本各地に追った異色の文学紀行『クダン狩り―予言獣の影を追いかけて』刊行記念トークイベント(2.12オンライン開催)のお知らせです。

小社ホームページ(白澤社 (hakutakusha.co.jp))でもお知らせしていますが、このブログでもお知らせいたします。

来る2月12日、午後1時30分から、『クダン狩り』刊行記念トークイベントをオンライン(zoom)で開催します。

怪談文芸の第一人者である著者・東雅夫氏を囲んで、クダン研究を牽引する笹方政紀氏、『クダン狩り』の表紙絵の作者である画家・箕輪千絵子氏、さらに司会役として近世怪談の研究で知られる今井秀和氏を迎え、クダンの魅力を縦横に語ってもらいます。

 

【日時】

2月12日(土)13時30分から15時。

 

【チケット】

このイベントはオンライン開催(有料=1000円)です。

下記のサイトからお申し込みください。

予言獣クダンを語る:『クダン狩り』刊行記念トークイベント | Peatix

 

【出席者紹介(敬称略)】

東雅夫(ひがし・まさお)

アンソロジスト、文芸評論家。1982年より『幻想文学』編集長、怪談専門誌『幽』編集長を歴任。主な著書に、日本推理作家協会賞を受賞した『遠野物語と怪談の時代』(角川選書)、『百物語の怪談史』(角川ソフィア文庫)、『クトゥルー神話大事典』(新紀元社)ほか、編纂書に『おばけずき 鏡花怪異小品集』(平凡社ライブラリー)、『文豪怪談ライバルズ!』(ちくま文庫)ほか多数がある。

 

笹方政紀(ささかた・まさき)

東アジア恠異学会会員。論文に「クダンと見世物」(『怪異を媒介するもの』勉誠出版、2015)、「新聞記事からみる怪異の形成―人面牛身の仔牛から「件(クダン)」へ」(『御影史学論集』四十二号、岩田書院、2017)、「戦時に件(クダン)を語る訳―戦時流言に関する一考察」(『世間話研究』第二十七号、岩田書院、2019)ほか多数。

 

箕輪千絵子(みのわちえこ

奈良県生まれ。浜口陽三生誕百年銅版画大賞(国際コンク-ル) 入賞、2010年 第7回 大野城まどかぴあ版画ビエンナーレ展 大野城市長賞。件(くだん)や獣人をモチーフにした銅版画・水彩・鉛筆画などを制作。

 

今井秀和(いまい ひでかず)

専攻は日本近世文学、民俗学比較文化論。大東文化大学非常勤講師、蓮花寺佛教研究所研究員。著書に『異世界と転生の江戸──平田篤胤松浦静山』(白澤社)、『世にもふしぎな化け猫騒動』(訳・解説、KADOKAWA)、共著に『安政コロリ流行記』(白澤社)など。

 

ほかに白澤社から担当編集者。

謹賀新年2022

あけましておめでとうございます。

白澤社は本日より通常通りの営業を始めました。

昨年(2021)は丑年でした。

省みれば創業以来、鈍牛のような歩みの小社が今日を迎えられたのは、ひとえにご購読下さった読者のおかげと存じ篤く御礼申し上げます。

昨年末クリスマスに刊行したばかりの『クダン狩り──予言獣の影を追いかけて』(東雅夫編著)は正月休み中も好調です。

白澤社は本年も、人文・社会のジャンルで出版活動に取り組んでまいります。

どうかよろしくお願いいたします。

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私ども白澤社の刊行物については白澤社ホームページをご覧ください。↓

白澤社 (hakutakusha.co.jp)

「白澤社」という社名の由来については、こちらの記事もご覧ください。↓

https://hakutakusha.hatenablog.com/entry/20170120/1484899180

本年もより一層のご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。

 

 

猛烈な寒波のなか『クダン狩り』を探しに出かけられる皆様へ

クリスマスに刊行した新刊『クダン狩り──予言獣の影を追いかけて』(東雅夫編著)は、主要書店で好評発売中ですが、流通の都合でまだ届いていない書店もございます。

寒波の影響でどこもたいへん寒くなっております。

下記サイトなどで店頭在庫の有無をご確認のうえ、あたたかい格好で書店へお出かけください。

 

クダン狩り | 出版書誌データベース (books.or.jp)

https://www.books.or.jp/books/detail/2477759

 

クダン狩り 東 雅夫(著/文 | 編集) - 白澤社 | 版元ドットコム (hanmoto.com)

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784768479889

 

なお、東雅夫さんのサイン本は、神保町・東京堂書店高田馬場芳林堂書店、新宿・紀伊國屋書店で扱いがございますが、現在庫の有無まではわかりかねますので、お手数でも各書店にお問い合わせください。

お出かけに際してはくれぐれもお風邪など召されぬようにご注意ください。

東雅夫編著『クダン狩り──予言獣の影を追いかけて』を刊行

東雅夫編著『クダン狩り──予言獣の影を追いかけて』を刊行しました。

その予言は必ず当たるといわれる人面牛身の妖獣クダン。

内田百閒、小松左京ら文豪たちをも魅了した謎めいた予言獣クダンの足あとを辿ったクダン狩りの旅! その顚末は・・・

怪談文芸の第一人者である著者のクダン論を集大成するとともに、第二部にクダン文学の傑作、内田百閒「件」、小松左京「くだんのはは」を収録。

第三部としてクダン研究者・笹方政紀氏との対談を掲載。

本書カバー画は箕輪千絵子さんによる件(くだん)をモチーフにした銅版画「何も言わなかった」。幻想的な表情に惹きつけられます。

『クダン狩り』の書誌情報は小社ホームページ↓をご覧ください。

クダン狩り | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)

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『大原社会問題研究所雑誌』で『河田嗣郎の男女平等思想』紹介

大原社会問題研究所雑誌』759号で、『河田嗣郎の男女平等思想──近代日本の婦人問題論とジェンダー』(亀口まか著)が紹介されました!

「書評と紹介」欄に詳細な書評を寄せてくださった評者は杉田菜穂さん(大阪市立大学大学院経済学研究科准教授)。

杉田さんは「約20年間の成果が詰まった本書は、初の本格的な河田嗣郎研究の書として世に出た」として、本書の構成と概要を丁寧に紹介してくださった上で、次のように評してくださいました。

「河田の婦人問題論の展開を性別特性論に挑戦した営為であった、それはジェンダー概念と重なる性別へのまなざしであったという著者の主張は、先行研究によってある程度まで成し遂げられるに留まっていた河田の男女平等思想の評価に具体性を与え、その先駆性を際立たせた。」

「著者の関心、したがって、本書の中心的な考察対象は河田の男女平等思想であるが、本書の読者は第1章、また付表を通して河田の思索の軌跡を追体験することができる。」

さらに杉田さんは本書の論点を3点取り上げて発展的に論じたうえで「間もなく没後80年となる河田が直視していた問題の多くは現代に持ち越されており、私たちが河田の思想から学ぶべきことは少なくない」としめくくっています。

杉田さん、ありがとうございました。

[書 名]河田嗣郎の男女平等思想

[副書名]近代日本の婦人問題論とジェンダー

[著 者]亀口まか

[頁数・判型]四六判上製、272頁

[定 価]3800円+税

ISBN978-4-7684-7983-4

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亀口まか著『河田嗣郎の男女平等思想』は全国の有力書店で、定価(3800円+税)でのお取り扱いがございます。もし店頭に見当たらなければ書店を通じてご注文ください。

お咲さん――小松左京『くだんのはは』より

日本沈没』で有名な小松左京の短編「くだんのはは」は、戦後の怪談文芸の傑作のひとつに数えられる作品です。石ノ森章太郎による漫画版も素晴らしい出来栄えでしたから、ご記憶の方も多いのではないでしょうか。

この「くだんのはは」を、まもなく小社から刊行される東雅夫編著『クダン狩り』に収録するため、全集版とハルキ文庫版(『くだんのはは』)を読み比べたりしていたのですが、面白いことに気がつきました。

小松左京のファンの方なら先刻ご承知のことでしょうが、ハルキ文庫の『くだんのはは』に収録されている短編「秋の女」には、「くだんのはは」と共通する人物が登場するのです。

その人の名は「お咲さん」。

このお咲さんについては、小松左京ライブラリさんの『SF一家のネコニクル』第4回~子育て猫プヨの『くだんのはは』お咲さん的なホスピタリティー~でも、小松家の愛猫にたとえられて紹介されています。↓

『SF一家のネコニクル』第4回~子育て猫プヨの『くだんのはは』お咲さん的なホスピタリティー~ - 小松左京ライブラリ (sakyokomatsu.jp)

「くだんのはは」のお咲さんと「秋の女」のお咲さんは、年齢など細かい設定が少し違うのですが、人柄ついてはどちらの作品でも誠実で親切なはたらきものの家政婦さんで主人公(語り手)にとって第二の母のような存在として描かれています。

「お咲さんはそのころ五十ぐらい、僕の家にずいぶん前から通っていた家政婦さんだった。子供好きで家事の上手な、やさしい人だった。僕はもう大きかったから、それほどでもなかったが、幼い弟妹達はよくなついていた。末の妹などは、病身の母よりもお咲さんに甘ったれてしまい、彼女はいつも妹がねつかなければ帰れない事になっていた。物を粗末にせず、下仕事もいやがらずにやり、全く骨惜しみしない――信じられないかも知れないが、昔はそう言う家政婦さんもいたのだ。」(「くだんのはは」より)

「お咲さんは、十七の年、つまり、私の兄がうまれた年、私の家に女中に来た。――来た当時の事は知らないが、はじめから気立ての無類にやさしい、貧しい家庭ながらしつけの行きとどいた、よく気のつく娘で、死んだ祖母にも、私の母にも、また先輩の女中たちにも大変気に入られ、かわいがられたらしい。(中略)――五人も子供をうみながら、根が病弱で、臥せる事の多かった母にかわって、そして兄を溺愛した祖母にかわって、お咲さんは私の母がわり、やさしい姉がわりとして、たえず私をいつくしみ、面倒を見てくれた。私はお咲さんに抱かれ、おぶわれ、手をひかれて大きくなって行った。」(「秋の女」より)

しかも、お咲さんは「くだんのはは」でも「秋の女」でも、主人公がお屋敷に住む謎めいた少女と出会う契機となる役回りを演じています。

もしや「くだんのはは」は実話だったのか?とまでは思わずとも、もしやモデルとなる人物がいたのではないか?とは誰しも思うところでしょう。そこで小松左京ライブラリさんにこっそりお尋ねしてみたところ、複数の人物がモデルとなっていたらしいとうかがいました。

やはり作家の想像力が創り出したキャラクターだったのですね。

幻想の世界への導き手として、お咲さんという実直でやさしい人物を登場させたことがたいへん興味深く感じられました。