白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

首里城「白澤之圖」発見!

首里城火災で焼失を心配されていた首里城所蔵の「白澤之圖」の現存が確認されたそうです。
琉球新報11月6日付の記事「首里城火災:県指定文化財3点の現存確認 一部、変化も」↓によれば、
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1021170.html
沖縄県沖縄総合事務局、沖縄美ら島財団は6日午後、首里城火災で記者会見を開き、「白澤之図」など県指定有形文化財3点の現存が確認できたと発表した。
全焼した南殿収蔵庫に保管されていた県指定有形文化財「白澤之図」には焼け跡などが認められなかったという。」
とのことです。
「白澤之図」、無事でした。

このたび、火難を免れることのできた琉球の自了(城間清豊)による白沢避怪図については、佐々木聡『復元 白沢図』p114-115でふれられています。

同書によれば、自了(城間清豊)による白沢避怪図(白澤之図)から、さらに十六世紀以前の白沢避怪図の存在が浮かびあがってくるそうです。
つまり自了の直筆であるというだけでなく、白沢避怪図の系譜を探る上でも重要な位置を占める作品だということです。
もちろん、「白澤之図」は無事でも、その他の貴重な文化財がたくさん焼失してしまったようですから、手放しに喜ぶわけにはいきませんが、小社としては、自社の社名に冠した白澤を描いた「白澤之図」が無事に発見されたことが、わがことのようにうれしく感じられるのです。

(2019/11/09追記)『復元 白沢図』の著者・佐々木聡氏からのご指摘により、表現を修正いたしました。

首里城火災と「白澤之圖」

ハロウィンに浮かれていた昨日、たいへんなニュースが飛び込んできました。
沖縄の首里城火災です。
琉球王朝時代を偲ぶことのできる建造物が焼失したことはまことに残念でなりません。
それだけでもショッキングでありますのに、小社としては、首里城所蔵の「白澤之圖」がこの火災で失われたかもしれないという続報にさらに驚きました。
琉球新報の記事によりますと、「首里城に所蔵されていた国宝級の工芸品 被害状況分からず 財団は「現在確認中」」だそうです。

 

沖縄県指定文化財を管理する県教育庁文化財課の担当者によると、沖縄美ら島財団に委託している県指定有形文化財の中で、首里城内に保管されている可能性があるのは絵画「白澤之図(はくたくのず)」、工芸品「黒漆牡丹七宝繋沈金食籠(くろうるしぼたんしっぽうつなぎちんきんじきろう)」と「黒漆菊花鳥虫七宝繋沈金食籠(くろうるしきっかちょうちゅうしっぽうつなぎちんきんじきろう)」の3点という。」
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1018355.html

 

上掲の琉球新報の記事は、被害状況不明の工芸品の一つ「白澤之図」について、次のように説明しています。
「「白澤之図」は琉球史で最も古い絵師である城間清豊の作品。災いを取り除くことができると信じられていた神獣の白澤を描いている。」
小社の社名に冠した白澤は、古代中国より伝えられた避怪辟邪の神獣で、その姿を描いた白沢避怪図の一つに琉球の自了(城間清豊)によるものがあることは、小社から刊行した佐々木聡『復元 白沢図』p114-115でふれられています。
いつか沖縄に行くことがあれば拝観しようと願っていただけに、残念としか言いようがありません。
沖縄県の皆様にお見舞い申し上げるとともに、せめて首里城の復元が早期にかないますよう、お祈りする次第です。

江戸前の人魚―『異世界と転生の江戸』より

いよいよ明日はハロウィンですね。
どんな仮装にしようか迷っている方は、西洋妖怪もいいですが、和物はいかがでしょう。
新刊『異世界と転生の江戸』(今井秀和著)には、江戸時代の奇妙な生物たちが登場します。
例えば、人魚はどうでしょう。
夜風の冷たいこの時期に露出が多いのはちょっとな、と思われるかもしれませんが、江戸前の人魚なら大丈夫。
江戸前の人魚って、どんなものか、「江戸ガイド」さんの「江戸時代の人魚」画像をご覧ください↓
https://edo-g.com/blog/2015/11/edo_uma.html/ningyo_kawaraban_l

肩まで魚ですね。
ウロコ模様の毛布かなにかを加工すれば簡単にできますね。
これなら寒い夜でも暖かに過ごせます。


異世界と転生の江戸』によれば、人魚が今のような露出多めになったのは、西洋のマーメイドの知識が日本に入ってきたからなのだそうです。
その結果、玄界灘で、「女容にして色青白く、髪は薄赤色にして長かりし」、いかにも人魚姫的な姿が目撃されたそうです。
ほんとです。平戸藩藩主・松浦静山候の伯父上・伯母上が見たとおっしゃっているのですから、江戸時代的には信用度高めです。

それではよいハロウィンを。

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天狗in『異世界と転生の江戸』

もうすぐハロウィンですね。ハロウィンの仮装に天狗はいかがでしょうか。
新刊『異世界と転生の江戸』(今井秀和著)前半の、異世界サイドの主役は天狗だと言ってもさしつかえありません。
今井さんは本書をこんなふうに書き出しています。

「第一章 「仙境」とは何か――江戸の「異世界」調査録

   一 天狗にさらわれた少年たち

 江戸後期の文政三年(一八二〇)のこと、「天狗」や「山人」が棲む異世界と、この世とを行き来できると自称する少年があらわれた。少年の名は寅吉。彼は、ふだんは江戸に住んでおり、常陸国(現在の茨城県)の山中にある異世界と江戸とを往来しているのだという。」(今井秀和著『異世界と転生の江戸』白澤社、p9より)

天狗が寅吉少年を連れていくのは常陸国岩間山、現在の茨城県笠間市にある愛宕山のことです。

愛宕山山頂にある愛宕神社は、天狗信仰の聖地でありました。
笠間観光協会の紹介サイト↓
http://www.kasama-kankou.jp/upsys_pro/index.php?mode=detail&code=479
今井さんは現地取材を敢行しています。
いました!天狗っ!

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これが愛宕神社の拝殿に奉納された天狗の面です(撮影・今井秀和)。
大きな方の面の横に「奉納愛宕天狗」と書いた板があるのも見えます。
この愛宕神社境内で、旧暦11月14日に行なわる奇祭「悪態祭り」は天狗が主催する祭りだそうです。

笠間市のサイトから「悪態まつり」のページ↓
https://www.city.kasama.lg.jp/page/page000154.html

また、愛宕神社の周辺は、「あたご天狗の森」として、ハイキングコース等が整備されています。

www.kasama-kankou.jp

秋・冬の行楽にいかがでしょうか。
そして旅のお伴には、今井秀和著『異世界と転生の江戸』(白澤社)をどうぞ。

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ハロウィンにわいわい天王

もうすぐハロウィンですね。
ハロウィンの仮装には定番の吸血鬼やゾンビも結構ですが、わいわい天王はいかがでしょうか。
わいわい天王とは何者か?
このたびめでたく主要書店の店頭で発売開始となりました新刊『異世界と転生の江戸』(今井秀和著)の表紙カバーをご覧ください。

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タイトルの右側にいる、天狗の面をかぶったサムライのような人物がわいわい天王です。
この絵は、北尾紅翠齋画・山東京伝文『四時交加』にある一場面を加工してあしらいました。
天狗の面に見えるものは猿田彦の面とも言われています。
右手に持った扇子でお札をまき散らしています。
まき散らすお札は、厄病除けで信仰された牛頭天王のお札だそうです(原画にはお札はありません)。
羽織袴に刀を腰に差しているところはサムライのようですが、羽織がずっこけているところは着こなしというものでしょうか。
この、わいわい天王は、元をたどれば修験者や神道者のアルバイトだったという説もありますが、文政年間に江戸にあらわれた大道芸人だったようです。
わいわい天王は、平田篤胤『仙境異聞』にも出てきます。

 

「わいわい天王とて、鼻高く赤き面をかぶり袴を着し、太刀をさし、赤き紙に天王と云ふ二字を摺りたる小札をまき散らして子供を集め、天王様は囃すのがおすき、囃せや子ども、わいわいと囃せ、天王様は喧嘩がきらひ、喧嘩をするななかよく遊べ、と囃しつつ行く」(子安宣邦校注『仙境異聞・勝五郎再生記聞』岩波文庫より。仮名遣いは適当に変えてありますのでご注意)

 

「天王様は囃すのがおすき、囃せや子ども、わいわいと囃せ」、おそらく何か節を付けて歌ったのでしょう。
こうした大道芸人の一人に、寅吉少年がついていくと、人気のないところで仮面をとったその姿は、幻術使いの修験者で、やがて寅吉少年は彼に弟子入りして江戸を騒がす天狗小僧となるのですが、その顛末は今井秀和著『異世界と転生の江戸』をご覧ください。
同書の書誌データは以下の通りです。
[書 名]異世界と転生の江戸
[副書名]平田篤胤松浦静山
[著 者]今井秀和(いまい ひでかず)
[頁数・判型]四六判並製、240頁

[定 価]2500円+税

ISBN978-4-7684-7977-3

新刊『異世界と転生の江戸』出来!

読書の秋におくる新刊『異世界と転生の江戸』(今井秀和著)が出来あがってまいりました!

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出来たての新しい本の香りを思い切り吸い込むと、なんとなく秋の香りがいたします。
今井秀和著『異世界と転生の江戸』は来週中頃から全国の主要書店で発売される予定です。
異世界と転生の江戸』の書誌データは以下の通りです。

[書 名]異世界と転生の江戸

[副書名]平田篤胤松浦静山

[著 者]今井秀和(いまい ひでかず)

[頁数・判型]四六判並製、240頁

[定 価]2500円+税
ISBN978-4-7684-7977-3 C0039 ¥2500E

 

[内 容]

少年たちの語る異世界とは何だったのか?

江戸後期の文政年間、天狗にさらわれて異世界を見てきたという少年、自分は他人の生まれ変わりだという少年があいついで現れ、江戸の知識人たちの注目を浴びた。

本書は、在野研究者・平田篤胤と隠居大名・松浦静山、その二人をとりまく江戸知識人のネットワークに着目し、彼らの怪異への関心の文脈を明らかにした。
妖怪が娯楽として楽しまれると同時に、天狗や河童が跳梁し狐や狸が人を化かすと信じられてもいた時代、複雑な怪異観を解きほぐす気鋭の論考。

 

[目 次]
第一章 「仙境」とは何か──江戸の「異世界」調査録
第二章 『仙境異聞』と和漢の文献知識──寅吉の語りを構成するもの
第三章 『仙境異聞』と仏教──寅吉の出家を軸に
第四章 『勝五郎再生記聞』と日本人の転生観
第五章 流転する語りと聞き取り──『勝五郎再生記聞』における「聞き書き
第六章 「口寄せ」と勝五郎の前世語り──憑依と転生の分水嶺
第七章 「幽冥の談」を言う者──松浦静山の〈怪異〉への態度
第八章 松浦静山の怪異観
第九章 松浦静山平田篤胤──その差異と接点 終章 異世界と転生の江戸

 

【著者略歴】
今井 秀和(いまい ひでかず)

1979年、東京都生まれ。大東文化大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専攻は日本近世文学、民俗学比較文化論。国際日本文化研究センター機関研究員などを経て、大東文化大学非常勤講師、蓮花寺佛教研究所研究員。著書に『天狗にさらわれた少年 抄訳仙境異聞』(訳・解説、角川書店、2018)、共著に『〈江戸怪談を読む〉皿屋敷』(白澤社、2015)、共編著に『怪異を歩く』(青弓社、2016)などがある。

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特別展「驚異と怪異――想像界の生きものたち」

国立民族学博物館で開催中の特別展「驚異と怪異――想像界の生きものたち」(11/26まで)を見学してきました。

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小社の好きな江戸の怪異関連では、人魚、河童から、天狗のミイラまで多数展示されていました。
もちろん海外の幻獣もたくさんご来場で、ジェニー・ハニヴァー(ガンギエイの干物)もありました。
全体的に乾き物が多い印象を受けました。
この日は晴天に恵まれて、万博公園は少し汗ばむくらいの陽気。
思わず冷えたビールをぐいっと一杯やりたくなりました。

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(↑太陽の塔も遠い未来には幻獣の姿を模した建造物とされるかもしれません)

しかし、いちばんのお目当ては、もちろん「白沢の図」です。
小社刊『復元 白沢図』の著者・佐々木聡さん秘蔵の「白沢の図」のほか、珍しい白沢の図が展示されていました。
なかには「白獏の図」と題された、白沢と獏の近縁を思わせるものや、見世物の白沢を描いたとされる、どう見ても大きな山羊か羊ではないか思われる獣の絵もありました。
そして、ミュージアム・ショップには『復元 白沢図』が、朝里樹さんの『日本現代怪異事典』(笠間書院)と並んでいるではありませんか!

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(↑ミュージアム・ショップさんのご許可を得て撮影・掲載)
ああ、うちの『復元白沢図』も4万部くらい売れてほしい。
それはともかく、特別展「驚異と怪異――想像界の生きものたち」(11/26まで)は、豊富かつ多様な展示で見どころ満載、たいへん楽しく見学してきました。
国立民族学博物館さんのサイトはこちら↓
http://www.minpaku.ac.jp/museum/exhibition/special/20190829kyoui/index