白澤社ブログ

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『実録四谷怪談 現代語訳『四ッ谷雑談集』』

このたび白澤社では『実録四谷怪談−現代語訳『四ッ谷雑談集』』を刊行しました。
鶴屋南北の歌舞伎『東海道四谷怪談』や京極夏彦さんの小説『嗤う伊右衛門』(中央公論新社・角川文庫)の題材となった江戸時代の実録小説の現代語訳です。
猛暑の読書に、じわっと怖い江戸怪談と伝説探訪の面白さを兼ねそなえたこの一冊はいかがでしょうか。

概要

[ジャンル]江戸文学
[書  名]実録四谷怪談
[副  題]現代語訳『四ッ谷雑談集』
[著  者]横山泰子・序、広坂朋信・訳注
[判型・頁数]四六判並製、208頁
[定価]2,200円+税
[ISBN]978-4-7684-7950-6

内容説明(帯文)

史実と伝説が交叉する「四谷怪談」の源流、現代語による初の全訳。
鶴屋南北の傑作怪談歌舞伎『東海道四谷怪談』によって日本の幽霊を代表する顔となったお岩様は、数々の伝説を生みだして今なお私たちの心をとらえている。
鶴屋南北が参照した実録小説『四ッ谷雑談集』は、江戸時代には写本のみで伝えられていたうえ、著者も成立年代も不明のため、これまで全容が広く知られてこなかった。
しかし、享保十二年の奥書、宝暦五年の写記を持つ写本の発見により、南北の歌舞伎や、その他の伝説、怪談文芸との影響関係を解きほぐす手がかりとなることが期待されている。
本書はその『四ッ谷雑談集』のすべての章を現代語訳した。
お岩様の怨霊のイメージだけで語られがちな「四谷怪談」だが、現代語訳によって『四ッ谷雑談集』からよみがえったのは、都市伝説に翻弄された江戸の武士と町人たちの生々しい人間ドラマであった。

担当編集者より

四谷怪談」という物語は、南北の『東海道四谷怪談』がもっとも有名ですが、歌舞伎上演以前から江戸時代に繰り返し語られてきた伝説でもあります。南北以前では、唐来山人、山東京伝曲亭馬琴柳亭種彦らがこの伝説を題材にした作品を残しています。
伝説としての「四谷怪談」が興味深いのは、物語の中心となる伝説(「お岩伝説」)が史実であったという説があるからです。しかし、その証拠として持ち出される文書「文政町方書上」は南北の『東海道四谷怪談』上演後に作成されたものなので、芝居の人気にあやかったものではないかという疑いがぬぐいきれず、物語の源流をたどる試みは足踏みしていました。
今回、現代語訳をお届けする『四ッ谷雑談集』は、享保十二年(1727)の奥書があるもので、現在知られているさまざまな「四谷怪談」のうち最古の文献となります。
もちろん「実録」といってもあくまでも小説ですので、現代のわれわれの考えるノンフィクションとはかけはなれた、大いに脚色をほどこした物語です。
しかし、おそらく描かれた事件の関係者の幾人かもまだ存命の頃に書かれたこの作品のうちに、今なお私たちの心をとらえてはなさない「お岩伝説」の原型への手がかりが潜んでいることは間違いなさそうです。

著者プロフィール

横山泰子(よこやま・やすこ)
現在、法政大学教授(近世文学・江戸文化)
著書に『四谷怪談は面白い』(平凡社)、『江戸歌舞伎の怪談と化け物』(講談社)など。
広坂朋信(ひろさか・とものぶ)
ライター・編集者。著書に『江戸怪奇異聞録』(希林館)など。