白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

大野更紗さんが『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』を紹介!

大野更紗さんが「シノドスジャーナル」連載記事「「存在しない」サバイバーたち - セックス・労働・暴力のボーダーで(III)」において、「本日の一冊」として、小社刊、キテイ『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』を取り上げてくださいました。
http://webronza.asahi.com/synodos/2011103100001.html
該当箇所のみ引用します。

21世紀のリベラルへの、果敢な挑戦。現代の普く論において、最大のインパクトを有するジョン・ロールズの正義論と〈基本財〉の理念。ロールズの「自由で自立した存在としての人間」という前提を根底から検討しなおす、ポスト・正義論の理論的支柱。

リベラルが配分的正義を掲げながらも、正面からは扱ってこなかった、依存とケア労働。それらに向き合うことなしに、急速なグローバル化と人口変動に直面するこの先の社会を展望してゆくことは困難である。「人間の条件としての依存」と、「あらたな平等」を示唆する、様々な領域での応用の可能性に満ちたテキスト。
著者のキテイの出自が、フェミニズムでも障害学でもマイノリティ論でもなく、古典的で「マッチョ」な正統派西洋哲学研究者であることは、特筆しておきたい。

大野更紗さんといえば『困ってるひと』(ポプラ社)で注目を浴びた「絶賛生存中」の「難病女子」。『困ってるひと』は小社内でも、こんなに面白い本も滅多にないと話題になりました。もし未読の方がいたらもったいないので、ご一読をお薦めします。
あまりに面白いので「面白い」と書きましたが、単に面白いと言うだけでは、皮膚筋炎、筋膜炎脂肪織炎症候群という難病と闘病中の著者に失礼かもしれません。
全身に激痛が走るなか、いくつもの病院で匙を投げられ、ご本人はさらりと書いていますが、一度は死も決意されています。「新幹線のホームに立ちつくし、わたしは考えた。これで、最後にしよう。これでだめだったら、帰り道に一人で死のう」とまで思いつめて、最後にたどりついた病院で、「免疫のシステムが勝手に暴走し、全身に炎症を起こす、自己免疫疾患と呼ばれるタイプの難病」であることが判明します。
現代の医学では完治することのない慢性疾患だそうです。その苦痛との闘いたるや壮絶としか言いようのないものですが、本書を読んで暗い気持ちになる人はたぶんいないでしょう。
著者の身の上に起きていることは痛い、つらい、苦しい出来事ばかりなのに、知性と表現力に恵まれた文系女子が絶望的な状況を乗り切っていくプロセスに、読者はすっかり魅了されてしまう、そんな本です。
もう一つ小社で話題になったのが、難病患者が必要なケアを受けるために、膨大な申請書類の山と格闘しなければならない場面です。体中が痛いという状況で、それをしなければならないかと思うと、ため息が出ます。
いささか我田引水ですが、そんな経験をなさった大野さんがキテイ『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』に目を留めてくださったのは、小社にとっても我が意を得たりの気分です。
大野さんの講評は短文ながら、同書の企図と特長を的確に捉えてくださっていて有難いかぎりです。