今日はエイプリルフールですから嘘(ウソ)にまつわる話題を一つ。
哲学者カントといえぱ、晩年の「嘘論文」(「人間愛から嘘をつく権利という、誤った考えについて」)で、いかなる場合でも嘘はいけないと主張した人ですが、そのカントが嘘をついていたかもしれない逸話をハンナ・アーレントが挙げています。
(前略)カントは毎日まったく同じ時間にケーニヒスベルクの街路を散歩したのは有名ですが、散歩の途中にであった乞食に施しをする習慣があったことはあまり知られていないでしょう。そのためにカントは、真新しい硬貨をいつも用意していました。使い古しのみすぼらしい硬貨を与えたのでは、乞食を侮辱することになると考えたからです。そしてふつうの三倍の額の施しをするのがつねでした。もちろん乞食たちはカントに群がりました。
ついにカントは散歩の時間を変えねばならなくなりました。でもその理由を告げるのを恥じて、ある肉屋の店員に乱暴されたからだという話をでっちあげました。(後略、ハンナ・アレント、中山元訳『責任と判断』ちくま学芸文庫、132-133頁より)
つまりカントは施しをねだられることが煩わしくなって、嘘の理由(肉屋の店員に乱暴されたから)をでっちあげたのです。カントは嘘をついていた(かもしれない)。
アーレントはこの逸話の典拠を挙げていないので、これが史実だったかどうかは分かりません。また、アーレントがこの話を持ち出した文脈は、嘘の是非というものではありませんでした。気になる方はちくま学芸文庫の『責任と判断』をご覧ください。
版元・筑摩書房さんのサイト↓
筑摩書房 責任と判断 / ハンナ・アレント 著, ジェローム・コーン 著, 中山 元 著 (chikumashobo.co.jp)
なお、小社では、意外に気が小さかったかもしれないカント先生のお誕生日(4/22)に向けて、カント「嘘論文」の新訳を収録した小谷英生著・訳『カントの「噓論文」を読む――なぜ噓をついてはならないのか』の刊行を準備中です。
カントの「噓論文」を読む | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)
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