白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

考える自由について―『カントの政治哲学入門』より

網谷壮介著『カントの政治哲学入門──政治における理念とは何か』より、これは名言とうなった言葉をご紹介します。

自分で考えるということは自分だけではできない。

これは『カントの政治哲学入門』の154頁に出てくる言葉です。
ただし、カントの名言ではなく、カントの論文「思考の方向を定めるとは何か」中の文章の趣旨を、網谷さんがみごとに要約した文です。
カント自身の文章も、同書の同頁で引用されています。

確かに、話したり書いたりする自由は最高権力によって奪い去られるものだが、考える自由は決して奪い去られない、と言われることがある。しかし、他者に自分の考えを伝え、他者も自分の考えを伝えるという、いわば共同性のなかで思考するのでないとすれば、私たちはどれだけ多くのことを、どれだけ正しく、十分に思考するというのだろうか。したがって、自分の考えを公開し伝える自由を人間から奪い去る外的な権力は、また同時に思考する自由さえ奪い去ってしまうと言っていい。(「思考の方向を定めるとは何か」8:144)

これに小社はいたく感銘を受けました。
思想・良心の自由と言いますが、それは内心の自由だけで十分なのではなく、言論・出版の自由の保証とセットでなければ、思想・良心の自由も十全にはならないということです。
小なりとも出版業に携わるものとして、忘れてはならないことだと感じ入った次第です。
「自分で考えるということは自分だけではできない」、だからこそ、さまざまな考えを記録し伝える出版業の意義もあるのだと、ともすれば出版不況で弱気になりそうな気持ちを奮い立たせてくれる言葉です。