白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

鈴木道彦・海老坂武監修 池上聡一編『竹内芳郎 その思想と時代』(閏月社)

 哲学者の永野潤さんからご新著『竹内芳郎 その思想と時代』(鈴木道彦・海老坂武監修 池上聡一編、閏月社)をご恵贈いただきました。

 下記サイトで目次と編者・池上聡一氏による「まえがき」を読むことができます。

竹内芳郎 その思想と時代 鈴木 道彦(監修) - 閏月社 | 版元ドットコム (hanmoto.com)

大家から新進気鋭まで、錚々たるメンバーが寄稿しています。

 なお発行元の閏月社さんは『竹内芳郎著作集』も刊行されています。

閏月社 刊行書籍のご案内 (jungetsusha.com)

 竹内芳郎(1924-2016)は、今では、みすず書房さんから刊行されているメルロー=ポンティの著作の達意の名訳でしか知られていないかもしれませんが、永野さんや私(ブログ担当者)の学生時代には、サルトル没後、論壇にあいまいな日本的ポストモダンが広がりつつあったムードに抗して、一人サルトルに依拠して果敢な論戦を挑んだ孤高の思想家として、その名は鳴り響いていました。

 永野さん執筆の「竹内芳郎サルトル──裸形の倫理」は、その竹内哲学を知るうえで格好の論文です。さすが、たぶん日本一わかりやすい哲学入門(小社比)『〔改訂版〕イラストで読むキーワード哲学入門 | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)』の著者だけあって、構成に工夫が凝らされています。

 なんと、本文より注の方が多い。

 本文は、永野さん自身の竹内芳郎論を、竹内ばりのポレミークな論点も交えつつ、1.自我主義の超克、2.天皇教との闘い、3.裸形の倫理、4.状況の中の思想、という四つのモチーフに注目して、竹内がいかにサルトルを活用したかを中心に、明晰な筆致でぐいぐいと描き出しています。

 これに対して、量的に本文を上回る注には、竹内自身の文章が多く抜粋されてあり、永野さんのセレクトによる竹内サルトル論のエッセンスを示した、いわばミニ・アンソロジーとしても読めるのです。

 また、注の後には、「竹内芳郎によるサルトルに関連する文献一覧」もあって便利。

 読後、今夏、小社から刊行した『戦後思想と日本ポストモダン | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)』での林少陽さんの議論も思い合わされて、現代哲学・現代思想というものについて中長期的な展望を持たないといけないなと感じました。