白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

岡本綺堂による関東大震災の被災記――『江戸の残映』

今日は防災の日関東大震災(1923)から百年目にあたります。

小社刊『江戸の残映――綺堂怪奇随筆選』(岡本綺堂著・東雅夫編)には、「綺堂怪談誕生の一契機となった関東大震災の被災記」四編が収録されています(東雅夫「編者解説」より)。

その初出を下記に挙げておきます。

震災の記  初出・『婦人公論』大正十二年(一九二三)十月。

地震雑詠  初出・底本・「木太刀」第二十一巻第十号、「木太刀」社、大正十二年十一月五日発行。

焼かれた夜  初出・底本・「木太刀」第二十一巻第十一号、「木太刀」社、大正十二年十二月五日発行。

十番雑記  初出・大正十二年(一九二四)十二月執筆、後『思い出草』昭和十二年刊に収録。

このうち「震災の記」の書き出しをご紹介します。

 なんだか頭がまだほんとうに落着かないので、まとまったことは書けそうもない。

 去年七十七歳で死んだわたしの母は、十歳の年に日本橋安政の大地震に出逢ったそうで、子供の時からたびたびそのおそろしい昔話を聴かされた。それが幼い頭にしみ込んだせいか、わたしは今でも人一倍の地震ぎらいで、地震と風、この二つを最も恐れている。風の強く吹く日には仕事が出来ない。少し強い地震があると、又そのあとにゆり返しが来はしないかという予覚におびやかされて、やはりどうも落着いていられない。

この機会に是非ご一読ください。岡本綺堂著・東雅夫編『江戸の残映――綺堂怪奇随筆選』は好評発売中です。

江戸の残映 | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)