白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

『世界4月号』岡野八代論文を勝手に読む

雑誌『世界4月号』(岩波書店)に広告を出しました。今回のラインナップは新刊『ひとり親のエンパワメントを支援する』と好評既刊『結婚の自由 』です。

ところが掲載誌を手にしてみると、特集1として「痛みからつながる―女性と法の現在」、特集2として「学校 息苦しさからの脱却」とあります。

あらら、この特集なら好評の『ケアするのは誰か?』と第5刷出来の『よい教育とはなにか 』の方がよかったかなと悔やんでも後の祭りです。

しかも、特集1「痛みからつながる―女性と法の現在」には、『ケアするのは誰か?』の訳者・共著者の岡野八代さんが「ケアと正義―あるいは〈法と女性〉を語る居心地の悪さについて」と題した論文を寄稿しているではありませんか。

岡野さんの『ケアするのは誰か?』をラインナップに加えなかったことが、ますます居心地の悪いことになってしまいました。

それでも気を取り直して、岡野さんならきっと良いことを書いているはずと期待して論文を読んでみると、期待にたがわず救われることが書いてありました。

後半の、ジェニファー・ネデルスキーというカナダの政治思想家の議論を紹介している箇所です。引用します。

「ネデルスキー自身はたとえば、いかにシングル・マザーに対する法制度の在り方が、彼女たちと福祉課課の職員との間に主従関係をつくりだしているのか、その改善のためには、より開かれた情報発信や、彼女たちの尊厳や自律が平等に尊重される必要があると論じる。また、カナダにおいて離婚が容易にできるようになった法の改正が、婚姻の意味を大きく転換させたことにふれ、法律は平等、自律、自由、責任といったわたしたちの価値観を大きく変えると指摘する。」(岡野八代「ケアと正義―あるいは〈法と女性〉を語る居心地の悪さについて」、『世界4月号』岩波書店、2023.4、145-146頁)

素晴らしい! 引用した文の前半は『ひとり親のエンパワメントを支援する』、後半は『結婚の自由』のテーマに深くかかわるものではありませんか? 違う? いえ、きっとそうです。そうに違いありません。

というわけで、雑誌『世界4月号』(岩波書店)に出した広告のラインナップは正解だったということに社内的にはなったのでした。