白澤社ブログ

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信濃毎日新聞で『最小の結婚』書評掲載!

 信濃毎日新聞8/15付朝刊読書面に『最小の結婚―結婚をめぐる法と道徳』(E・ブレイク著・久保田裕之監訳)の書評が掲載されました。

 「社会的に合意できる結婚とは」との見出しで、評者は、信濃毎日新聞書評委員の千野貴裕さん(早稲田大学准教授、政治思想史・政治理論)。

 以下、要点を抜粋しながらご紹介します。

 千野さんは書評冒頭で、「性的マイノリティーの「結婚」に対する社会的認識が急速に広がったこと」や、テレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」のヒットといった、結婚観の多様化を示す例を挙げながら、「このように「結婚」の意味は拡張してきたものの、われわれは、結婚制度それ自体を当たり前のものとして(それほど疑問に思わず)受け入れ続けているのではないだろうか。」と問いかけます。そして、次のように指摘します。

 「実は、結婚の哲学的・道徳的地位に関する根本的考察は専門家の間でも手薄であり、この空白を埋める貴重な一冊が本書である。」

 結婚生活についての人生訓みたいな本はたくさんありましたが、そもそも結婚とはなにか?という問いに本格的に答えたのは本書が初めてではないかと思います。

 ちなみに、見出しにある「社会的に合意できる結婚」とは、(素朴な意味での)社会が認める結婚のことではありません。千野さんは原著者ブレイクが結婚をめぐるさまざまな問題を検討して到達した「根本的問い」を示しています。

「つまり、現在の「結婚」が前提とする異性愛主義と一夫一婦制よりも、現実の結婚観はより多様であることを踏まえると、われわれが社会的に合意できる結婚の最大公約数的な形態は何か、という問いである(もちろん、異性愛と一夫一婦制も排除しない)。

この問いに対する著者の応答は、本書の題名でもある「最小の結婚」の提唱である。」

 千野さんは、このように本書の論点を明快に示しながら、ブレイクの提唱する「最小の結婚」の意義について次のように指摘します。

「「最小の結婚」は、結婚制度自体を否定せず、結婚が本来意味する相互の対等なケア関係をより際立たせようとする提案だ。つまり「最小の結婚」は、結婚を最小化するのではなく、むしろ結婚の意義を最大化する試みと言えよう。」

  書評は次のようにしめくくられています。

「結婚は、なぜこれほど人に大きな決断を迫るのかと、一度は疑問に思った人は少なくないのではないか。本書は、この問いに応答する多くの手がかりを与えてくれる。」

 千野さん、的確な書評をありがとうございました。

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