白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

『ケアの倫理からはじめる正義論』紹介

糸賀一雄生誕100年記念事業のウェブサイト『生きることが光になる』(糸賀一雄生誕100年記念事業実行委員会)で、小社刊行『ケアの倫理からはじめる正義論─支えあう平等』(エヴァ・F・キテイ著・岡野八代、牟田和恵編著・訳)をご紹介いただきました。
「わたしにとっての“福祉”的な本」と題されたコーナーで、評者は日常編集家のアサダワタルさんです。
該当ページはこちら↓
http://100.itogazaidan.jp/report/report_40
評者のアサダワタルさんのホームページはこちら↓
http://kotoami.org/
たいへん多才な方で、たしかに「日常編集家」としか呼びようがないほど多方面で活躍されていらっしゃいます。
なお、糸賀一雄生誕100年記念事業については、ウェブサイトで詳しく紹介されていますのでそちらをご覧ください。
http://100.itogazaidan.jp/
ちなみに今月の30日まで滋賀県立近代美術館ギャラリーで糸賀一雄展が開催されているそうです。
http://100.itogazaidan.jp/event/event_2

さて、アサダワタルさんは次のように書きだされています(以下、アサダワタル氏の書評からの引用はすべて糸賀一雄生誕100年記念事業のウェブサイトより)。

糸賀一雄生誕100年事業に関わったこの半年、「福祉」という領域の中で最も関心を持ったのが、ケアをする立場の人がケアされる立場の人から与えられる力の存在についてだった。それは、ケアする側がケアの焦点となるケアされる側の特性、―例えば様々な障害、加齢による衰え、ひきこもり、薬物依存、ホームレスなど―だけを捉えず、その特性の裏返しとも言える特異な感性や佇まい、表現や価値観などに気づくことで、新たに得られる価値転換と言ってもよい。

アサダワタルさんはご自身が運営にかかわった「野宿から畳に上がった生活保護受給者のおじさんたちの生きがいづくりをきっかけに始まった紙芝居劇団「むすび」の活動」の経験をふりかえりながら、「一見彼らをケアする側に立つ私たちが、彼らの表現やその人生経験から醸し出される佇まいによって、確実にエンパワメントされた」と言います。
これを読んですぐに、あ、セーシャさんのことを言っているんだな、とピンときましたが、もう少し、アサダワタルさんの文章をたどりたいと思います。

そのような経験を各地で積み重ね、文化と福祉、あるいはアートとケアの関係を考える中で出会った本が、この『ケアの倫理からはじめる正義論 支えあう平等』である。
本書は、フェミニスト倫理学の論者である哲学者 エヴァ・フェダー・キティ氏の著書『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』での論考を軸に、その監訳者によるキティ氏へのインタビューやエッセイを収録したものだ。また本書では、キティ氏の論考が机上の議論のみならず、重度の知的障害を持つ自身の娘 セーシャさんとの関わり合いから生み出されたことが印象的に語られている。まず、「依存」という概念の再構築に徹底的に向き合う著者たちの姿勢にとても感銘を受けたと同時に、ケアをする側に対するさらなる「ケア」の視点からは、これまでの私の実践を支えてくれるたくさんのヒントをいただいた。

昨日、このブログでブルジェール『ケアの倫理』(白水社)をご紹介しました。↓
http://d.hatena.ne.jp/hakutakusha/20140318
この『ケアの倫理』でブルジェールさんも、キテイさんとセーシャさんの関係性について着目し「不利な状況にある人を支えるということは、その人の尊厳、生きる力、私たちと世界をつくる力を大切にすることなのだ」と述べていました。
これはきっとアサダワタルさんにも共有されるものなのではないかなと思います。
アサダワタルさんは「滋賀県福祉施設において類い稀な才能を発揮する「作家」たちの活動」についてふれながら、「ケアする側がケアされる側から圧倒的な感動を受け取り、自身の常識を揺さぶられ、さらなる他者にこの価値を伝えよう(正確には伝えずにはいられない)と試みること」が「全国の福祉関係者が主催する展覧会の開催や美術館の開設へと繋がっている」と言います。
これは、セーシャさんの存在によって従来の倫理学の前提を揺さぶられ、大著『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』を書きあげたキテイさんにも通じるように思います。
このようにアサダワタルさんは、ご自身の経験とキテイ哲学のエッセンスを照らし合わせるようにして、『ケアの倫理からはじめる正義論』を紹介したうえで、「ぜひ、広い意味での「福祉」に関わる多くの方々に読んでいただきたい一冊だ」と御高評下さいました。
アサダワタルさんの書評全文もまた「ぜひ、広い意味での「福祉」に関わる多くの方々に読んでいただきたい」と思います。
なお、今回ご紹介いただいた『ケアの倫理からはじめる正義論』についての書誌データは小社ブログにあります。↓
http://d.hatena.ne.jp/hakutakusha/20110801