白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

驚異の大図鑑!『予言獣大図鑑』(文学通信)

クダン狩り | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)』でお世話になった笹方政紀さんからご新著『予言獣大図鑑』(長野栄俊編 岩間理紀・笹方政紀・峰守ひろかず著、文学通信)をご恵贈いただきましたのでご紹介いたします。

 驚異的な大図鑑です。まずは下記サイトで詳細な目次をご覧ください。

長野栄俊編・岩間理紀・笹方政紀・峰守ひろかず著『予言獣大図鑑』(文学通信) - 文学通信 (bungaku-report.com)

 この大図鑑のどこが驚異的かというと、こういうことなのです。

 例えば、目次にある通り、第一「神社姫・姫魚」系には以下の項目が含まれています。

神の姫/八幡宮の神主娘さと/神池姫/姫魚/神社姫(ヘン魚)/神社姫/姫魚/姫魚/肥前国平戸浜より上る神/姫魚/神社姫/神社姫/神社姫/神社姫/神社姫/姫魚/姫魚/姫魚/(参考)姫魚/龍宮の使/(参考)神社姫/(参考)神虵魚/奇魚/異魚/肥後国熊本珍ら敷もの/人魚/(参考)姫魚/熊本の神主山本氏の娘/大神社姫(化魚)/龍神の使(人魚)/(参考)神蛇姫/龍宮之使(異物)/女魚/肥後国熊本海中より上るめづら敷もの/(参考)神蝮媛/(参考)蛇媛/竹駒大明神之神主の娘/竹駒大明神の神主の娘/竹駒大明神の神主の娘/肥後国の神主娘

 神社姫・姫魚とか呼ばれる和式人魚だけで、ざっと数えると、(参考)とされるものも含めて、だいたい40項くらい?あります(老眼なので数え間違っていたらご容赦)。そして、本を開けば人面魚身の和式人魚の絵が延々と出てくるのです。しかも、どれも構図はほぼ同じ、絵に添えられた文章も似たり寄ったり。

 ふつうなら、ふつうはですよ。代表的なものをいくつか選んで詳しくとりあげて、あとは資料名だけ記しておしまいじゃないですか。ところがこの大図鑑は手間も紙幅も惜しまずにあるだけ全部掲載しているのです。

 しかも、しかもですよ。続く第二「件(クダン)」系の次に、第三「くたべ」系の章が独立して設けられている! 

 いやはや、なんというこだわりでしょう。ふつうなら、ふつうはですよ。くたべは件の亜流として、それこそ(参考)程度の扱いとしてしまうところなのに、わざわざ別章を立てるとは、こんなにこだわるのは誰ですか?(見当はついています)。

 第四以降は鳥が続きます。もうこの大図鑑がいかに驚異的なのかはお分かりですよね。第四「奇鳥」系、第五「双頭烏」系、第六「異鳥」系、ふつうなら、「予言する鳥で一括しちゃえば」と思うところなのに、この大図鑑はきっちり分類して、あるだけ全部掲載。こんなことはふつうなら思いつきません。いや、思いついても実行しません。まさに驚異的な大図鑑です。

 以下、第七「アマビコ」系、第八「山童」系、第九「蜑人」系、第十「きたいの童子」系、第十一「豊後国に出で候もの」系とそれぞれこってりと続けた挙句、これだけやればもう十分、いや十二分だろうと思うのに、第十二 その他。その他がありました、恐れ入りました。

 第十二 その他の最後を飾る項目は「天狗」でした。天狗と言えば、小社の『天狗説話考 | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)』(久留島元著)もただいま好評発売中です。『予言獣大図鑑』ともどもご愛読ください。

鈴木道彦・海老坂武監修 池上聡一編『竹内芳郎 その思想と時代』(閏月社)

 哲学者の永野潤さんからご新著『竹内芳郎 その思想と時代』(鈴木道彦・海老坂武監修 池上聡一編、閏月社)をご恵贈いただきました。

 下記サイトで目次と編者・池上聡一氏による「まえがき」を読むことができます。

竹内芳郎 その思想と時代 鈴木 道彦(監修) - 閏月社 | 版元ドットコム (hanmoto.com)

大家から新進気鋭まで、錚々たるメンバーが寄稿しています。

 なお発行元の閏月社さんは『竹内芳郎著作集』も刊行されています。

閏月社 刊行書籍のご案内 (jungetsusha.com)

 竹内芳郎(1924-2016)は、今では、みすず書房さんから刊行されているメルロー=ポンティの著作の達意の名訳でしか知られていないかもしれませんが、永野さんや私(ブログ担当者)の学生時代には、サルトル没後、論壇にあいまいな日本的ポストモダンが広がりつつあったムードに抗して、一人サルトルに依拠して果敢な論戦を挑んだ孤高の思想家として、その名は鳴り響いていました。

 永野さん執筆の「竹内芳郎サルトル──裸形の倫理」は、その竹内哲学を知るうえで格好の論文です。さすが、たぶん日本一わかりやすい哲学入門(小社比)『〔改訂版〕イラストで読むキーワード哲学入門 | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)』の著者だけあって、構成に工夫が凝らされています。

 なんと、本文より注の方が多い。

 本文は、永野さん自身の竹内芳郎論を、竹内ばりのポレミークな論点も交えつつ、1.自我主義の超克、2.天皇教との闘い、3.裸形の倫理、4.状況の中の思想、という四つのモチーフに注目して、竹内がいかにサルトルを活用したかを中心に、明晰な筆致でぐいぐいと描き出しています。

 これに対して、量的に本文を上回る注には、竹内自身の文章が多く抜粋されてあり、永野さんのセレクトによる竹内サルトル論のエッセンスを示した、いわばミニ・アンソロジーとしても読めるのです。

 また、注の後には、「竹内芳郎によるサルトルに関連する文献一覧」もあって便利。

 読後、今夏、小社から刊行した『戦後思想と日本ポストモダン | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)』での林少陽さんの議論も思い合わされて、現代哲学・現代思想というものについて中長期的な展望を持たないといけないなと感じました。

天狗のお菓子

高尾山のお土産

 いよいよ刊行間近の『天狗説話考』(久留島元著)の成功祈願に高尾山にお参りに行ってきました。関西なら鞍馬山愛宕山に行くところなのでしょうね(詳しくは『天狗説話考』第一章天狗像の形成をご覧ください)。

お土産に天狗のお菓子を買ってきました。

 右上の「天狗の鼻くそ」はココアコーティングしたピーナツ、左上の「烏天狗のたまご」はチョコを包んだクッキー、中央下の「天狗さまのへそのゴマ」は黒豆の甘納豆です。

 いずれも高尾山口のお土産物屋さんで購入しました。

 

山陰の銘菓「伯耆坊」

 下の写真は著者の久留島元さんから陣中見舞いにいただいた山陰の銘菓「伯耆坊」です。

 鳥取県の名山・大山に住まう天狗・伯耆坊の名を冠した「伯耆坊」は、きんつばに似た上品な甘さのお菓子で、美味しくいただきました。

製造・販売元の彩雲堂さんのサイトはこちら↓(白澤社ではお菓子は扱っておりません)

伯耆坊 - 彩雲堂 公式オンラインショップ | 島根県松江市の老舗和菓子お土産専門店 彩雲堂 (saiundo.co.jp)

 ちなみに、鳥取県伯耆大山(ほうきだいせん)に住まう天狗・伯耆坊と、神奈川県の相模大山(さがみおおやま)の天狗は、同じ「大山」だけに、微妙に関係があるようなないような。しかもそこに上田秋成雨月物語』でおなじみの、四国は香川県の白峰で崇徳院の怨霊に仕える「相模」がからんでくると、天狗の怪しいネットワークを夢想してしまいそうですが、そのあたりの謎解きは『天狗説話考』第三章天狗銘々伝をご覧ください。

 久留島元著『天狗説話考』、間もなく刊行です。お楽しみに。

天狗説話考 | 白澤社

本についての本

 今日、11月1日は本の日なのだそうです(知りませんでした)。

本の日って何? | 本の日 (honnohi.com)

 そこで、小社刊行物から本についての本をいくつかご紹介します。

まずは三木清の名著『人生論ノート』を徹底解説したこの二冊から。

三木清『人生論ノート』を読む | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)

希望について | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)

↓次は親鸞の名著『歎異抄』を近代の知識人たちがどう読んできたか、思想史の大家が解き明かす重厚な一冊。

歎異抄の近代 | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)

感染症が流行した幕末に緊急出版された『安政コロリ流行記』を現代語訳するとともに、当時の病気観がどのようなものだったかを解説したこの本は、新聞書評でも取り上げられました。

安政コロリ流行記 | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)

読書の秋本番となりました。よろしくお願い申し上げます。

昨日は「天狗の日」

 昨日10月9日は「天狗の日」だったそうです。

 天狗と言えば、通称大天狗と呼ばれる高い鼻の天狗と鳥のくちばしをもった通称烏天狗があります。最近、文庫化された宮本袈裟雄『天狗と修験者――山岳信仰とその周辺』(法蔵館文庫)によれば、前者を山伏型天狗、後者を鳥類型天狗と分類しています。

 天狗小僧寅吉(平田篤胤『仙境異聞』)の世界を探った今井秀和『異世界と転生の江戸』に登場する天狗は鼻の高い山伏型天狗のようです。

異世界と転生の江戸 | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)

 しかし、鳥類型天狗、いわゆるカラス天狗もどことなく愛嬌があって憎めません。法蔵館文庫『天狗と修験者』のカバー絵もカラス天狗です。

天狗と修験者【法蔵館文庫】 - 法藏館 おすすめ仏教書専門出版と書店(東本願寺前)-仏教の風410年 (hozokan.co.jp)

 東京都八王子市の高尾山薬王院の天狗のうちわに描かれているのは鼻高の山伏型天狗ですが、本尊としてまつられている飯縄権現(いづなごんげん)はカラス天狗の姿をしています。

高尾山薬王院境内の飯縄権現堂】

この石仏は現・日野市から飛んできたとの伝説から「飛飯縄」との異名を持つ。

 

 白澤社では只今たいへんおもしろい天狗の本を編集中です。刊行のめどが立ちましたら、またあらためてお知らせします。お楽しみに。

岡本綺堂による関東大震災の被災記――『江戸の残映』

今日は防災の日関東大震災(1923)から百年目にあたります。

小社刊『江戸の残映――綺堂怪奇随筆選』(岡本綺堂著・東雅夫編)には、「綺堂怪談誕生の一契機となった関東大震災の被災記」四編が収録されています(東雅夫「編者解説」より)。

その初出を下記に挙げておきます。

震災の記  初出・『婦人公論』大正十二年(一九二三)十月。

地震雑詠  初出・底本・「木太刀」第二十一巻第十号、「木太刀」社、大正十二年十一月五日発行。

焼かれた夜  初出・底本・「木太刀」第二十一巻第十一号、「木太刀」社、大正十二年十二月五日発行。

十番雑記  初出・大正十二年(一九二四)十二月執筆、後『思い出草』昭和十二年刊に収録。

このうち「震災の記」の書き出しをご紹介します。

 なんだか頭がまだほんとうに落着かないので、まとまったことは書けそうもない。

 去年七十七歳で死んだわたしの母は、十歳の年に日本橋安政の大地震に出逢ったそうで、子供の時からたびたびそのおそろしい昔話を聴かされた。それが幼い頭にしみ込んだせいか、わたしは今でも人一倍の地震ぎらいで、地震と風、この二つを最も恐れている。風の強く吹く日には仕事が出来ない。少し強い地震があると、又そのあとにゆり返しが来はしないかという予覚におびやかされて、やはりどうも落着いていられない。

この機会に是非ご一読ください。岡本綺堂著・東雅夫編『江戸の残映――綺堂怪奇随筆選』は好評発売中です。

江戸の残映 | 白澤社 (hakutakusha.co.jp)

 

林 少陽『戦後思想と日本ポストモダン』刊行

残暑お見舞い申し上げます

猛暑、いや酷暑の続く今年の夏、このブログも夏バテ気味でしたが、このたび秋の読書シーズンに向けて新刊を刊行しましたのでお知らせいたします。

[書 名]戦後思想と日本ポストモダン

[副書名]その連続と断絶

[著 者]林 少陽

[頁数・判型]四六判上製、264頁

[定 価]3000円+税

ISBN978-4-7684-7998-8 C0010 ¥3000E

著者略歴や目次につきましては小社ホームページをご覧ください。

https://hakutakusha.co.jp/book/9784768479988/

本書は三部構成。

日本的ポストモダンの功罪を丸山眞男に代表される戦後思想との連続と断絶に焦点をあてながら指摘する第一部は、80年代90年代の日本の「現代思潮」を概観するうえでも有益な示唆に富んでいます。第二章には山口昌男網野善彦前田愛が登場。

カント平和論が戦後日本知識人に与えた影響をたどりながら柄谷行人におけるカントへの移行を論じる第二部では、F・フクヤマ『歴史の終わり』が日本のポストモダン派にどのように受け止められたのかも。

第三部では柄谷を日本の現代思想の代表者として位置づけ、その最近の思想の特徴を歴史性への回帰として描き出し、東アジアの視点から総括する。

キーワードは「悔恨の共同体」から「世界史の構造」へ。