白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

東雅夫氏『小説推理』3月号で『新選百物語』紹介

『小説推理』3月号(双葉社)で、東雅夫さんが『新選百物語―吉文字屋怪談本 翻刻・現代語訳』(監修=篠原進/翻刻・注・現代語訳=岡島由佳/コラム=堤邦彦・近藤瑞木)を紹介してくださいました。
版元双葉社さんによ『小説推理』のサイトはこちら↓
https://www.futabasha.co.jp/magazine/suiri.html
同誌の「今月のこの一冊・幻想と怪奇」欄です。
該当箇所を抜粋させていただきます。

 


(『芥川龍之介英米怪異・幻想譚』岩波書店の紹介に続けて)芥川と英米文学の関わりを考えるときに看過できないのが東大英文科の学統だが、その礎を築いたひとりというべき小泉八雲ことラフカディオ・ハーンが架蔵していた百物語怪談本として(一部では)有名な『新選百物語』が、岡島由佳による註と現代語訳(篠原進監修)、さらには堤邦彦、近藤瑞木のコラムも添えて、このほど白澤社(発売は現代書館)から上梓された。数ある百物語本の中でも、これまで本格的な紹介がなされてこなかった書目だけに、嬉しい企画である。
 ハーンは本書所収の「嫉妬にまさる梵字の功力」から「おかめのはなし」を、「紫雲たな引蜜夫の玉章」から「葬られた秘密」を、それぞれ自分流に作品化している。特に前者をハーン作品と読み較べてみると、興味深いことが分かるはずだ。亡妻の遺骸に僧が梵字を書く(耳なし芳一!)ところまでは同一だが、原典にはもうひと幕、夫が妻の遺体と一夜を明かすという恐怖ミッションが記されているのだ。こちらは同じくハーンの「死骸にまたがった男」さながらだが、同篇の原典は『新選百物語』ではなく『今昔物語』の「人妻成悪霊除其害陰陽師語」なのだった……中古から近世に至る怪異譚のカオスを目の当たりにする心地で興趣が尽きない。
 本書の各話の末尾には「類話」として、内容の近似する説話や作品が博捜され掲げられている。これはまことにありがたい配慮で、この記載を手がかりに、右に一例を示したように、古典怪談の沃野へ縦横に分け入ることができるのである。(『小説推理3月号』191頁より)

 


ていねいにご紹介いただき、ありがとうございました。
実は、この『新選百物語』を翻刻してみたら…と思いついたのは、東雅夫さんの『百物語の百怪』(現在は改題して『百物語の怪談史』角川ソフィア文庫)の『新選百物語』の項に「活字本は刊行されていない。」とあったからなのです。
そこで、読めない(読みにくい)ものを読めるようにして読者に提供することも出版の役割だと考えて『新選百物語』の翻刻を企画いたしました。
本書の企画のきっかけを作った東さんに「嬉しい企画である」と評価していただき、小社としてもうれしいかぎりです。
なお、東雅夫さんは、昨年末の『幽 30号―特集・平成怪談、総括!』の目玉企画「平成怪談文芸年表&『幽』の軌跡」でも、小社の〈江戸怪談を読む〉叢書を年表に加えてくださっています。あわせて御礼申し上げます。

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