白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

面白かった!『べつのほしにいくまえに』

 昨夕は趣向の演劇公演『べつのほしにいくまえに』(作・オノマリコ(趣向) 演出・扇田拓也(空 観) 監修・深海菊絵)を観劇してました。

 監修の深海菊絵さんから小社刊E・ブレイク『最小の結婚』からインスパイアされた作品とのご案内をいただいて、急きょ社員総出(といっても総勢2名)で神奈川県立青少年センターに出かけたのです。

 最近、生のお芝居から遠ざかっていたものですから久しぶりの芝居見物でしたが、行ってよかった、面白かった!

 公演は26日までだそうです。昨日は満席でした。

趣向「べつのほしにいくまえに」 - 神奈川県ホームページ (pref.kanagawa.jp)

 お芝居の物語(あらすじ)は次の通りです。

 少し未来のとある国の話。徐々に下がる婚姻率に危機感を覚えた政府は「互助・共助のための結婚法」を立案、施行しようとする。それは、性別や人数、恋愛関係の有無に関わらず、ケア関係にある人間たちが「結婚」できることになる法律だった。これによって恋愛関係にある男女はもちろん、同性カップルの結婚も可能になり、友情関係から結婚を選ぶ人々も増加。婚姻率は15年ぶりに上昇する。家制度や恋愛から解き放たれた「結婚」はより多くの人生を生きる方へ導くのか。

シェイクスピア『夏の夜の夢』と同じ名を持つ登場人物たちで語られる「結婚」についての物語。

【公演情報】趣向『べつのほしにいくまえに』 – 趣向-shukouより。

 劇中に登場する「互助・共助のための結婚法」はあくまで作中のもので、ブレイクの提唱する「最小結婚」そのものではありません。しかし、ブレイクが「最小結婚」を提起するに至った結婚をめぐる諸問題は劇中で活写されていましたし、何よりもちゃんと面白いドラマになっていた。つまり、小社が言いたいのはこのお芝居は面白いということです。

 難しい話は置いておいても、近未来SFとして楽しめるお芝居でした。結婚について悩んだことのある人ならピンとくるだろうセリフが次々に飛び交い、結婚をめぐる悲喜交々のドラマがテンポよく展開されます。そして、そこには面白い仕掛けが。

 作品の世界は現代よりも少しだけ未来の日本という設定で、登場人物たちも現代の私たちとほぼ同じ等身大の市民なのですが、その名前はシェイクスピアの戯曲からとられています。ほとんどはボトム(専業主夫)、ヘレナ(アルバイト店員)、テセウス衆院議員)のように『真夏の夜の夢』からですが、子育て中の同性パートナー、コーデリア(『リア王』)とオフィーリア(『ハムレット』)、その居候のギルデンスターン(『ハムレット』)、そして祖母ロミオとのケア婚を望むジュリエットといった面々も活躍。ただでさえ複雑かつ揺れ動きがちな人間関係をひっかきまわして上へ下への大騒動を仕切ってみせるのはもちろん『真夏の夜の夢』の妖精ロビン・グッドフェロー(パック)。これで面白くないはずがない。

 そして実際に役者さんたちの熱演によって、この手の込んだお芝居は生き生きと上演されたのでした。もう一度言いますが、面白かった。桜木町から紅葉坂を登って行った甲斐がありました。