白澤社ブログ

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『毎日新聞』で『安政コロリ流行記』書評掲載!

今朝の『毎日新聞』2021年7月10日付朝刊「今週の本棚」欄で、『安政コロリ流行記―幕末江戸の感染症と流言』(仮名垣魯文原著、門脇大訳、篠原進ほか著)が紹介されました!

書評を執筆してくださったのは、歴史学者磯田道史さん! 磯田さんは映画化もされた『武士の家計簿』(新潮新書)のほか、最近は『感染症の日本史』(文春新書)も発表されています。本書の評者としてうってつけの方です。

「「尾ひれ」にこそ人間社会の本質」と題された書評は、磯田節炸裂!という感じの名調子で、ぜひともご一読いただきたいものです。

記事は毎日新聞社さんのサイトでも読めます(有料記事)。↓

今週の本棚:磯田道史・評 『安政コロリ流行記』=仮名垣魯文・原著 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

以下、さわりの部分をご紹介します。

「江戸時代、パンデミックは珍しくなかった。」と書き出された前半は、本書のあつかう幕末のコレラパンデミックの惨禍と原著者・仮名垣魯文の紹介。歴史学者らしく、魯文のあつかった資料や、幕府の感染症対策にもふれています。

「ところが、このルポは後半になると、現代人には理解不能な記事のオンパレードになる。現実には存在しないはずの幽霊や疫病神、コレラの正体とされる狐狼狸なる意味不明の獣などが次々に登場する。」

そこで磯田さんは、今井秀和さんの本書解説「コロリ表象と怪異」を参照して次のように書いています。

「見えないままでは不安である。嘘でもいい。コレラを可視化したい。その心理が働いた。そこで幕末人はコレラの正体=狐狼狸という架空獣の姿を脳内に作り、それを集団幻想として共有した。」

つまり、狐狼狸とは「事実から派生する「尾ひれ」」です。

幕末には「この事実ではない嘘の「尾ひれ」のほうこそが現実の歴史を大きく動かした」、そして、今またそのような社会状況にあるのではないか。磯田さんはこの書評を「悪い予感がする。」としめくくっています。

磯田さん、素敵な書評をありがとうございます。

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