白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

新刊『ケアするのは誰か?』のタイトルについて

翻訳書のタイトルをどうするかは悩ましい問題です。

好評発売中の新刊『ケアするのは誰か?』の原題は「Who Cares?」です。直訳しただけじゃないのか?と思われるかもしれませんが、実はそうではないのです。

原題「Who Cares?」に込められたニュアンスを、訳者の岡野八代さんが「ウィメンズ アクション ネットワーク(WAN)」のサイトに書いているので抜粋します。

「2020年2月以降迷走し、いまなおおそらく迷走している日本でのコロナ対策のなかで、この国の総理大臣の唯一といってよい決断が、科学的根拠も法的根拠ものないままに突然公表された、小中高の全国一斉休講の要請でした。そのことを振り返ってみても、この国の政治を動かす者/ 権力者たちは、〈ケアするのは誰か? Who Cares?〉という問いかけとともに、社会を考えようとしていないことが、白日の下にさらされました。それどころか、〈自分が知ったことではない Who Cares?〉と、子育て・教育・介護・看護といったケア・ワークは、誰かがしてくれているのだと、固く信じて疑わない人たちが、日本の社会のケア配分とその価値づけを牛耳っているのです。」https://wan.or.jp/article/show/9199

 つまり、「Who Cares?」という英語には「ケアするのは誰?=自分の知ったことではない」というニュアンスがあるのです。

原著者のトロントさんは「Who Cares?」の慣用表現を逆手にとって、「ケアするのは誰?=自分の知ったことではない→それでいいのか?」というニュアンスをこの文に込めたのです。

岡野八代さんはツイッターでこうつぶやいています。

「おれカンケーねー」というタイトルでは、トロントさんの訴えは伝わりませんものねぇ。是非このタイトルに込められた批判力を手に取って感じて欲しいでふ。」https://twitter.com/yot07814/status/1319229701445935105

そこで字義通りの『ケアするのは誰か?』が邦題に選ばれたわけです。

タイトルだけでも興味深い『ケアするのは誰か?』は全国の主要書店で好評発売中でふ。

新刊『ケアするのは誰か?』の書誌データは次の通りです。

[書 名]ケアするのは誰か?

[副書名]新しい民主主義のかたちへ

[著 者]ジョアン・C・トロント[著]/岡野八代[訳・著]

[頁数・判型]四六判並製、160頁

[定 価]1700円+税

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