白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

真夏の怪談にふさわしいのは『牡丹灯籠』

真夏の怪談にもっともふさわしいのは、実は『牡丹灯籠』であります。
季節もまさに夏、お盆のころ、盆提灯に似た牡丹灯籠を提げた美女が、カランコロンカランコロンと駒下駄を鳴らして…というのは、円朝の長篇落語『怪談牡丹燈籠』でおなじみになった光景です。
ところで、前回、『皿屋敷』をご紹介した記事で、「皿屋敷」伝説のお菊ちゃんに、『死霊解脱物語聞書』の累さん、「四谷怪談」のお岩さまと合せて江戸三大幽霊と呼ぶと申しました。
『牡丹灯籠』のお露ちゃんは入らないのか、可哀そうじゃないかというご意見もあろうかとは存じますが、これについて小社では、諸説ありますとは逃げません。
「牡丹灯籠」怪談のヒロインの原型は、中国・明代の奇譚集『剪燈新話』の一編『牡丹燈記』に登場する符麗卿です。時代は元末の騒乱の頃とされていますから14世紀中頃、つまり江戸時代じゃないんです。
これが日本で広く知られたきっかけとなったのは、浅井了意による短編集『伽婢子』に収録された『牡丹燈籠』です(本書第二章に門脇大さんによる現代語訳掲載)。
もともと正月の話だったのを夏のお盆のころに変えたのも浅井了意の着想でした。
この翻案小説でヒロイン二階堂弥子の霊が京都に現われたのは天文17年(1548)の設定で、これは戦国時代、まだ江戸時代になっていない。
ようやく幕末になって三遊亭円朝が時代を変えて江戸の旗本の娘お露をヒロインにしますが、それまでの「牡丹灯籠」怪談のヒロインは江戸時代を代表する幽霊とはちょっと言い難いというのが、小社の見解です。
とはいえ、この物語が〈江戸怪談を読む〉叢書に入っているのは、物語そのものが江戸時代の人々に愛され、繰り返し翻案されてきたことによります(本書第一章の横山泰子さんによる概説をご覧ください)。
その集大成とも言えるのが円朝の『怪談牡丹燈籠』で、本書第六章でハイライトシーンを紹介し、第七章で斎藤喬さんが詳細に論じています。
また今井秀和さんによる第六章「骨女の怪奇とエロス」による意表をついた着眼による妖怪画の分析などもあり、『牡丹灯籠』の魅力を多角的に語り明かす一冊です。

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本書の書誌データは次の通り。
[叢書名]〈江戸怪談を読む〉
[書 名]牡丹灯籠
[著 者]横山泰子・門脇大・今井秀和・斎藤喬・広坂朋信
[頁数・判型]四六判並製、208頁
[定 価]2000円+税