白澤社ブログ

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冬に怪談?──『新選百物語』

新刊『新選百物語──吉文字屋怪談本 翻刻・現代語訳』(監修=篠原進/翻刻・注・現代語訳=岡島由佳)は今日発売されました。

冬に怪談?と驚かれますが、装幀をご覧ください。

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白地に青と赤、深緑の帯、この配色はクリスマスの贈り物にピッタリではありませんか!
冗談はともかくとして、冬場の怪談本が奇異に見えるのは、怪談は夏の物と思われているからでしょう。
それでは、怪談は夏のものと思われがちなのはなぜでしょうか?
〈江戸怪談を読む〉叢書の『皿屋敷』『猫の怪』でお世話になった民俗学者の飯倉義之さんが、國學院大学のサイトでその質問に答えています。
「なぜ日本では、夏に怪談話をするのですか?」
https://www.kokugakuin.ac.jp/article/11192
留学生さんからの質問のようです。
飯倉さんはこの質問に、「夏は死者の魂が帰ってくる季節だからです。」と回答していますが、その説明のなかで折口信夫『涼み芝居と怪談』を参照して「夏が怪談の季節になったのは、歌舞伎が夏に「涼み芝居」と称して、幽霊が出る恐ろしい演目--例えば「東海道四谷怪談」など--を上演したからだ」ことを指摘しています。
もちろん、飯倉さんも指摘するようにその背景にはお盆の習俗があったからですが、少なくとも都市部で怪談が夏のものになったことは、歌舞伎の影響だということは見過ごせません。
歌舞伎が盛んになったのは、江戸時代になってからです。
ということは、それ以前には、怪談は必ずしも夏のものとは限られていなかったのではないでしょうか。
それに、折口も挙げている『東海道四谷怪談』のラストシーンは冬、雪景色のなかです。
鶴屋南北の芝居の原型となった『四ツ谷雑談集』(小社刊『実録四谷怪談』)のラストシーンも雪の降り積もる冬でした。
岡本綺堂の短編「妖婆」も雪の降りしきる冬の夜の怪談です。
小社の新刊『新選百物語──吉文字屋怪談本 翻刻・現代語訳』は、早いところでは今日あたりから週明けにかけて、全国の主要書店で発売されます。
こたつみかんで、冬に怪談を読むのも案外おつなものです。