白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

戸隠・宮本旅館蔵「白澤避怪図」

先週、信州戸隠・宮本旅館にうかがい「白澤避怪図」を見せていただきました
小社社名の「白澤社」は「なんて読むんですか?」とよく尋ねられます。
「はくたくしゃ」と読みますとお答えすると、次に聞かれるのは「白澤ってなんですか?」です。
白澤とは中国の伝説にある神獣の名前で、この白澤の言葉を伝説上の帝王・黄帝の命で記録した『白沢図』という書物があったと伝えられています。
小社の社名はこの神獣に由来しています。
残念ながら『白沢図』は長い歴史の中で散佚し、現代では幻の書となってしまいましたが、神獣・白澤を描いた魔除けの札「白澤避怪図」は各地に残されています。
そのうちの一つが、長野県戸隠の宮本旅館蔵「白澤避怪図」です。
いつか実物を拝んでみたいと願いながら、小社創業から16年目にして、ようやく宮本旅館さんを訪ねることができました。

この日はとても寒く、長野市に降り立つと小雪がちらついていました。善光寺前からバスに乗って戸隠高原へ。
よい機会なので、戸隠神社奥社まで行ってみようと奥社入口でバスを降りたのですが、あたりは一面の雪景色。
奥社の鳥居の根元は雪に埋もれていました。
これではとても奥社までたどり着けないとバスを待って下山、中社からは何度も足を雪にとられてころびながら目的地・宮本旅館に向かいました。
宮本旅館さんのホームページはこちら↓
http://www.miyamotoryokan.com/
事前に来意を告げてお願いしてあったとはいえ、宮本旅館さんはあたたかく迎えてくださり、ご主人の宮本和好さんから貴重なお話をうかがうことができました。また、お茶うけに出していただいたお漬物もたいへん美味しくいただきました。
この宮本旅館は、もともと修験道の聖地だった戸隠の御師の運営する宿坊の一つであったそうです。
戸隠では明治の廃仏毀釈で多くの神仏習合の文物が失われたなか、この「白澤避怪図」だけはほかの道具類のなかにまぎれて廃仏毀釈の嵐の時代を生き延び、戦後、偶然発見されたそうです。
宮本旅館のご主人のお話では、ある日、古道具類を片づけていたら、たまたま板がクルリと裏返って、裏に何かが彫られているのに気付き、調べてみたところ、それが「白澤避怪図」だったとのことです。

こうして奇跡的に見つかった「白澤避怪図」と版木を、旅館内の御神殿の間で拝観させていただきました。
残念ながら、版木にひびが入っており、版木保存のため「白澤避怪図」を新たに刷ることはできないとのこと。宮本旅館さんでもこの一枚しかないということです。
貴重な文化財を、宮本旅館さんのご許可をいただいて撮影させていただきました。
写真左が、専門家によって刷られた「白澤避怪図」。
その右隣の黒い板が、版木です。
禍を辟け福を招くとされる神獣白澤。
この辟邪文化の源流にあったのが、今では失われて幻の奇書となってしまった『白沢図』でした。
小社では年明けに、この幻の奇書を復元した佐々木聡『復元白沢図―古代中国の妖怪と辟邪文化』を刊行いたします。乞うご期待。
なお、戸隠と白澤の関係については、熊澤美弓氏の論考「戸隠御師と白澤」(東アジア恠異学会編『怪異を媒介するもの』勉誠出版)があります。
版元・勉誠出版さんの紹介ページ↓
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100504
ご興味のある方はこちらもぜひ。