白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

注を付けた理由――岸見一郎『三木清『人生論ノート』を読む』編集こぼれ話

前回は、三木清『人生論ノート』の成立と構成について簡単にメモしましたが、わざわざこんな基本的なことを書き出したのにはわけがあります。

三木清論は何冊も出されているのに『人生論ノート』について詳しくふれた本が見あたらず、「旅について」の初出が不明なようになおわからない点があるからです。
戦前昭和期に一世を風靡した思想家の、もっとも読まれている本なのに、研究上はほとんど手つかずであるという事実に小社は驚きを禁じ得ませんでした。
三木清と三木の活躍した時代を知っている方々がご存命のうちはそれでもよかったかもしれません。
けれども、三木清没後70年が過ぎて、三木とその時代を直接知っている人はご存命でもいまや90代・80代。
それ以下の世代にとっては、三木の文章をさっと読むだけで文脈がわかるかというと無理なんです。
ましてや、新刊書店で文庫本で手に入る著作が『人生論ノート』(新潮文庫)のほかは、『読書と人生』(講談社文芸文庫)、『パスカルに於ける人間の研究』(岩波文庫)などに限られている現状ではなおのことです。
そこで、小社は岸見一郎『三木清『人生論ノート』を読む』の編集にあたり、脚注のほかに各章ごとに章末注をつけるなどして、できるだけ三木清自身の言葉にふれていただけるようにしました。
岸見さんの講義とともにご覧いただければ幸いです。