白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

『日本教師教育学会年報第23号』で『リスク社会の授業づくり』紹介

日本教師教育学会編『日本教師教育学会年報第23号』(学事出版)の書評・文献紹介欄で、小社刊、子安潤著『リスク社会の授業づくり』が紹介されました。
日本教師教育学会さんのホームページはこちら↓
http://www.gakkai.ne.jp/jsste/index_j.html
執筆は、和歌山大学の二宮衆一さん。書き出しの部分を引用します。

地震や台風などの自然災害によってもたらされる危険や脅威を「デンジャー(danger)」と呼ぶのに対して、東日本大震災における福島原発災害や薬害エイズなど、人の手によってもたらされた危険や脅威を「リスク(risk)」と呼ぶことができる。現代社会の特質の一つは、私たちが社会的にも個人的にも「リスク」にさらされている点にある。本書は、そうした「リスク社会」における授業論を探究したものである。

このあと二宮さんは、『リスク社会の授業づくり』の内容を簡潔明瞭に紹介しながら、著者子安潤さんの問題意識が「「教育と科学」の関係に再考を促す」ものであることを指摘します。

福島原発災害は、「原発は安全」という科学的結論に疑義を抱くに十分な参事であった。科学に依拠するだけではリスクを回避できないこと、リスクの評価に関して複数の対立する科学的判断が存在することを私たちは学んだ。科学に依拠するリスクや科学的判断の複数性を含んだ授業づくりの理論、それが本書が探究し、新たに提起しようとしているものである。

もちろんそれは単なる科学不信や漠然とした懐疑論ではありません。「現代社会に生きる子どもたちにとって考える価値がある、あるいは考えるべき必要性がある論争的な問題を授業の中で取り上げる」ことで「自律的判断力を育てる授業」です。この構想の特徴を二宮さんは次のように見事に表現されています。

現代社会の論争という「大きな物語」に対して、子どもたち一人ひとりの「小さな物語」を育てていく構想が、本書の提案する授業なのである。

これは『リスク社会の授業づくり』のめざすところをうまく言い当てているように感じました。
ご執筆いただいた二宮さん、ご恵贈いただいた日本教師教育学会さん、ありがとうございました。