白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

『教育方法学研究』に『リスク社会の授業づくり』の書評掲載

『教育方法学研究 第39巻』(日本教育方法学会)で、子安潤著『リスク社会の授業づくり』が取り上げられました。
書評者は教育学者の梅原利夫さん(和光大学)です。
冒頭の部分を引用させていただきます。

3.11以後、著者の明快な問題意識のもとで探究されてきた貴重な提案書である。それはリスク社会に生きることを意識して、「本当のこと、真理をと言うだけでは足りず、それらも批判的に検証していく授業過程」を重視する必要がある、という立場である(まえがき)。「本書の議論が、想像力を持って大震災を考え、声を聞き、問いかける教育実践が生まれる一つの契機となれば」(同)という著者の願いは届いているのではないか、という印象を受けた。
著者の問いの原点は、本書でも何度も強調されているように、犠牲者を出したある保育園での園児の語り、すなわち「お家へ帰らないで!って言えばかったじゃん」という一句である。それに研究者として応えようとし、授業づくり論で受けとめようとした苦闘の末の書である。

このあと梅原さんの書評は、「3部にまとめられた本書の魅力」として本書の内容を紹介してくださった上で、最後に「本書の意義と注文」として本書の意義を次の三点にまとめて挙げてくださっています。

第一には、著者が「3.11後の授業づくりの課題」と向き合ってきている進行過程が、本書には率直に表れていることである。著者の試行錯誤を含む思考過程が、論文の積み重ね(しかも初発の論稿の書き換えを含んで)という表現形式で開陳されている。ここに著者の自説づくりへの誠実さが読み取れる。
第二には、随所で主張していることだが、提案が唯一の「正解」を提示することに向けられているのではないということである。一人の研究者が歩いてきた思考と実践の文脈を示すことによって、読者自身が個別具体的な子どもたちを念頭において、自分の文脈で授業づくりに立ち向かって行くことを励ましている。本書を通じて、著者と読者との双方向の対話がすすむことを期待するような性格の著書である。それが本書の価値を増していると思う。
第三には、これまでの授業づくりで陥りがちだった正解主義、断定主義、誘導主義の弊害は、子どもにとって切実であり、しかも大人社会でも未確定で論争的なテーマについては、極めて深刻であり、その克服を授業づくりそのものにおいて追求していくことの重要さを、説得的に示したことである。

単なる紹介ではなく、「近代」という用語の定義が曖昧なようだが…というツッコミも入っていて、教育学の専門家による本格的な書評論文です。
ご高評、ありがとうございました。