白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

『福祉社会学研究10』でシティズンシップ論が書評されました

『福祉社会学研究10』(福祉社会学会)で、小社刊行の木前利秋・亀山俊朗・時安邦治編著『変容するシティズンシップ』と同『葛藤するシティズンシップ』の二冊が書評されました。
福祉社会学会さんのホームページ→http://www.jws-assoc.jp/
評者は、堅田香緒里さん。堅田さんの最近のお仕事には『ベーシックインカムジェンダー』(現代書館)があります。現代書館さんのホームページより↓
http://www.gendaishokan.co.jp/goods/ISBN978-4-7684-5672-9.htm
堅田さんは編者としてのお仕事のほか「女/学生/ベーシックインカム――女/学生に賃金を!」という文章を寄せられています。
さて、『福祉社会学研究10』に掲載された堅田さんご執筆の書評は、7頁にわたる長文で、このブログですべてをご紹介することはできませんので、ほんのさわりだけ。
まずは書き出しの文から。

一般に「市民権」と訳されてきたシティズンシップという概念が、社会福祉や社会政策をめぐる学問的領野で市民権を得てからおよそ30年たっただろうか。ここで取り上げられる二つの著作は、古くて新しいこの概念をめぐって、社会学政治学、社会思想史等の多様な領野を出自とする研究者らの、数年にわたり取り組まれてきた共同研究の成果である。

この後、『変容するシティズンシップ』と『葛藤するシティズンシップ』を各章ごとに詳しく紹介してくださった上で、グローバルな格差が広がるなかで「「諸権利をもつ権利」の現代的意義を主張する本書の重要性は明白」と評してくださいました。
さらに、今後日本で、「シティズンシップ・スタディーズ」とも呼べるような、包括的な学問領域が生まれるならば、「この二冊は、その出発点に据えられる成果のひとつとなるであろう」とも。『シティズンシップの政治学』(岡野八代)、『シティズンシップの教育思想』(小玉重夫)とこのテーマにこだわってきた小社にとりましては、まことにうれしい評価をいただきました。
堅田さんの書評は、次のようにしめくくられています。

最後に、制度化されたシティズンシップは、言うまでもなく国家による国民の統治に大きく貢献してきた。しかしそれは他方で、市民の権利獲得をめぐる闘争の産物でもあったことを忘れてはならない。もし私たちが新しいシティズンシップの構想を必要とするのであれば、その理論的な検討を丁寧に蓄積していくことに加え、コミュニティの外側に配置されてきた者たち―無産者、「黒人」、女、「外国人」―の手になる闘争の歴史から学ぶのでなければならないだろう。

同感です。