白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

『日本人は何を考えてきたのか〈明治編〉』

棚卸しなどで忙しくしていたら、いつのまにか前のエントリから一ヶ月もたってしまいました。
NHK取材班編著『日本人は何を考えてきたのか〈明治編〉文明の扉を開く』(NHK出版)という本を読みました。
版元さんの紹介ページはこちら↓
http://www.nhk-book.co.jp/engei/shop/main.jsp?trxID=C5010101&webCode=00815502012

本書は、明治時代という近代への大転換期に、新たな社会を築くために国家権力に抗った人々の生き方を紹介する同タイトルの4回のテレビ番組を書籍化したものです。
第1章はタレントの知花くららさんを案内役に民主主義論を展開した福沢諭吉中江兆民を、第2章は俳優の菅原文太さんを案内役に自由民権運動を、第3章は俳優の西島秀俊さんを案内役に近代文明による自然の破壊に警鐘を鳴らした田中正造南方熊楠を、第4章は幸徳秋水の研究家でもあるボルドー第3大学教授のクリスチーヌ・レヴィさんを案内役に社会主義運動家の幸徳秋水堺利彦を紹介しています。
そういえば、自由民権運動を紹介する回に登場した菅原文太さんは、NHK大河ドラマ獅子の時代』(1980年放映)で民権運動にもかかわった旧会津藩士の役を演じていました。懐かしいです。
取材班は番組づくりにあたって、日本人が初めて西欧近代文明に向き合った明治という大きな転換期を見つめ直すと同時に、「3・11後の日本に何を示してくれるのか」を視点の一つに据えたのだそうです。
始めは国会議員として、後には市井の人として文字通り命をかけて足尾銅山鉱毒問題に取り組んだ田中正造は次のような言葉を残しています。

真の文明は山を荒らさず/川を荒らさず/村を破らず/人を殺さざるべし

今、NHKをはじめとする大手マスコミは脱原発を求める人々の声を報道することに消極的です。ため息の出るような現代からふり返ると、100年以上も前に書かれた田中正造の文章は色あせていないどころか輝いて見えます。今私たちが何を考えればよいのか、本書で紹介された先人の知恵と実践が活きる時かもしれません。
もう一つ印象に残った言葉がありました。

少しだも 人のいのちに 害ありて 少しくらいは よいと云うなよ

これは東京電力福島第一原発事故直後に枝野幸男官房長官(当時)が繰り返した「直ちに健康への影響はありません」を揶揄する狂歌ではありません。田中正造1903年の日記に書いた短歌です。
「少しくらいは よいと云うなよ」。