白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

「主婦」といえば…

今週、2月9日付の朝日新聞天声人語」に、「おかあさんのびょうき」という小学校2年生の詩が紹介されていました。
2日前からお母さんが寝込んでいるようで、「…ぼくはおかゆをつくりました。おねえちゃんは、りんごジュースをつくりました。おとうさんは、じぶんのたばこをかいにいきました」という詩です。

子どもたちは、寝込んでいるお母さんの食事の世話をして、とてもほほえましいのですが、一方、お父さんは病気のお母さんの介抱をするのではなく、自分のためのたばこを買いに行った?!

この日の天声人語の主題は、昨年秋のたばこ税大幅値上げにもかかわらず、日本たばこ産業の今年3月決算での営業利益は前年度並みで減らなかったというニュースだったのですが、導入に上の詩が紹介されていました。詩の書かれた当時は喫煙者が多かったことから、天声人語子は、喫煙を「おとうさんのびょうき」と書いていますが、それより病気のおかあさんの方が気にかかります。大黒柱のお父さんの嗜好品を買うのも、主婦の役目だったんですかねえ。

「主婦」といえば、小社の『学校/家族をジェンダーで語れば』(小玉亮子さんとの共著)や、『ジェンダー・フリー・トラブル』の編者としてお世話になっている木村涼子さんが、昨年、『〈主婦〉の誕生』という本を吉川弘文館さんから出しておられます。

版元の吉川弘文館さんの紹介ページ→http://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b67641.html

1920年〜30年代の婦人向け雑誌のうち、インテリ女性層にも、一般婦人層にも大変人気があった、『主婦之友』(主婦の友社)と『婦人倶楽部』(講談社)の二誌を読み込み、「主婦」というカテゴリーの形成と再生産のメカニズムを丹念に分析した労作です。

「専業主婦願望」をもつ若い女性たちが、いまも結構多いそうですが、1915年の『主婦之友』創刊時、「主婦」という言葉は雑誌のタイトルとして「下品だ」と言われたとのエピソードが本書に紹介されています。おもしろいものです。

ところで当時、これらの雑誌には連載小説(いわゆる通俗小説)が掲載され、売上を左右したそうです。
何度も映画やTVドラマ化された菊池寛新聞小説真珠夫人』や、超人気作家の吉屋信子(「特に吉屋作品は『ダメな良人』の念入りな描写の宝庫」!)などは大人気の小説で、『〈主婦〉の誕生』で一章(第?部4章「主婦のファンタジー」)を割いて、物語構造から小説の登場人物が表わす「欲望」まで、読者の反応も織り交ぜながら読み解いています。
読み応えがあります。

おしまい。